
以前、箱から出るだけで想像力がアップするという記事を書きましたが、今回は手を握るだけで記憶力がアップするというものです。これはモンクレア州立大学のRuth Propperらが、51人の右利きの被験者を対象として、72単語のリストを覚えるというテストをした結果です。
被験者は、単語を覚える前と思い出す前にそれぞれ右か左手で5cmのボールを握ります。また、対照群として、ボールを握らないグループも用意します。
つまり、
・覚える前に左手で握る、思い出す前に左手で握る
・覚える前に右手で握る、思い出す前に右手で握る
・覚える前に左手で握る、思い出す前に右手で握る
・覚える前に右手で握る、思い出す前に左手で握る
・ボールを握らない
の5つの条件で単語リストを覚えて、思い出すというテストをしたのです。その結果、単に手でボールを握るだけで、記憶の結果が変わったのです。
それでは、どの条件が一番テストの結果が良かったでしょうか?
とても意外で面白い結果になりました。以下が、単語テストの結果です。下に書いた、右、左というのは、記憶する前、思い出す前にそれぞれどちらの手でボールを握っていたかを示します。

(上のグラフは下の論文より引用、ただし、グラフ記載の条件は翻訳しています)
上を見て分かるように、覚える前に右手を握っていて、思い出す前には左手を握っていたグループが最もスコアがよくなりました。ただし、覚える前と思い出す前の両方で右手を握っていたグループは、何もしなかったグループよりもスコアが悪くなりました。そして、覚える前に左手を握っていたグループはよりスコアが悪くなりました。
このテスト結果は、HERAモデル(Hemisphereic Encoding/Retrieval Asymmetry モデル、記憶・想起非対称半球モデル)というものによって予想されるものです。このモデルでは、記憶には左前頭野が、想起には右前頭野が関係しているため、事前に握ることでその領域が活性化すると予想します。
被験者数が少なめとか、左利きだとどうなんだ?、と気になるところはありますが、単純で使えそうなテクニックですね!
この記事は以下の論文を参考に書きました。
Ruth E. Propperら, 2013, "Getting a Grip on Memory: Unilateral Hand Clenching Alters Episodic Recall.", PLoS ONE, 2013; 8 (4): e62474 DOI: 10.1371/journal.pone.0062474
(文・絵: やまざきしんじ)