2013年10月31日
ポップコーンが広告の邪魔をする
CMというのは、単に「この商品はこんなに良いから買って!」というメッセージを発しているものではありません。
人は、「単純接触効果」というものに縛られています。これは、ある物や人などを何度も見ると、それに好感を持つというものです。全く知らない製品よりもどこかで名前を聞いたことある製品の方が良いものと思います。実際には、明確に覚えていなくともこのような単純接触効果は働きます。
例えば、以前書いた記事では、「タイガーウッズに似た顔の人から商品を買うか」ということを書きました。これは顔を合成して作ったタイガー・ウッズの要素が35%含まれたセールスマンから物を買うかというものでした。この結果は、タイガー・ウッズのスキャンダル前後で、そのセールスマンから物を買いたいかどうかが変わるという面白いものでした。
今回は、ドイツのケルン大学のSascha Topolinskiらが行った、この単純接触効果の邪魔をする研究についてご紹介します。
これは映画の間のCMの時にポップコーンを食べると、単純接触効果がなくなるというものです。そう聞くと、ポップコーンを食べたことで食欲が満たされるので、商品などへの欲求がなくなるから効果がなくなるだけではないのか、と思われるかもしれません。
しかし、Saschaらの実験は、きちんと一週間後にその効果を検証しています。また、ポップコーンを食べる組と角砂糖を食べる組に分けており、カロリーの摂取という点では同様な条件にしています。
この実験は本物の映画館で行われ、映画の合間にはCMが流されました。このCMは本物を使用していますが、外国でやっている親しみのないブランドのものです。ここで消費者は、渡されたポップコーンか角砂糖を食べながらCMを見ました。
そして1週間後に96人の被験者が、研究室に呼ばれ、並べられた商品の好感度を尋ねられます。商品の半分は見たことがないもので、半分は映画の時にCMを見たものです。すると、角砂糖を食べた被験者は、CMで見た商品に良い印象を持っていました。一方で、ポップコーンを食べた被験者には特に広告の効果はなく、CMを見た商品に良い印象を持っていませんでした。
また、同様に1週間後に188人の被験者が、研究室に呼ばれ、今度はお金を渡されて6種類の化粧水のどれを買うか、もしくは6種類のチャリティーのどれに寄付をするかを選びました。今回も同様に半分はCMで見たもの、半分はCMで見ていないものです。
すると、映画のCMの間に角砂糖を食べた人たちは、映画のCMでやっていたブランドをより選びましたが、ポップコーンを食べていた人たちは特にCMの効果を受けませんでした。
つまり、CMをやっている時にはポップコーンやお菓子をもぐもぐしているとその効果から抜け出せるようです。逆に、宣伝をしたい時には、相手に渡すお菓子は時間がかかるものでなく、すぐ食べてしまえるような小さな和菓子などにするといいということですよね。
この記事はケルン大学の"Popcorn in the Cinema: Oral Interference sabotages advertising Effects"を参考に書きました。
写真はFlickrのrpb1001さんのものを使用しました。
(文: やまざきしんじ)
2013年10月29日
動画広告は87%見られるが、読み込みに時間がかかる動画は55%しか見られない
最近はGoogleの動画広告サービス、スマートフォンの普及や帯域の拡大などもあり、動画広告が増えてきています。でも、どういう動画広告が有効なんでしょうか?
最近は動画広告も流行ってきつつあり、様々なことが言われていますが、ほとんどのものは自分の経験談やどこかで聞いた少数の事例を話しているだけではないでしょうか?
マサチューセッツ大学アーメスト校のRamesh Sitaramanらは、この動画広告に関して6億5000万以上の広告へリンクされた2億5700万以上のデータと、3億6700万以上の広告が挿入されたビデオを解析し、広告がどこまで見られたか、といったことを解析しました。
まず、全ての視聴者は同じような行動をしていたわけではないことが分かりました。一回だけ見る視聴者もいれば、特定のサイトを何度もヘビーウォッチャーもいました。ヘビーウォッチャーは、一つの動画を何度も見るし、広告も気にしませんでした。
また、短い動画に挿入された広告は途中で止められる可能性が高いのに対して、映画やテレビ番組のような長い番組に入っている広告はより最後まで見られました。これは、当たり前でしょうか。映画やテレビ番組といった長い番組には、より価値がみなされているためか広告をそのまま見るのです。
また、この研究では、動画の読み込みに時間がかかるビデオと、ビデオがはじまる前にかならず広告を見せられる動画のどちらが多く見られるかも確認しました。最近の日本の環境では、あまり読み込みに時間がかかるということは少なくなったと思います。一方、ビデオがはじまる前に動画が流れると、そのまま停止してしまう経験はよくあります。
この結果は、動画開始10秒の時点で、読み込みに時間がかかる動画は45%の視聴者が停止していましたが、最初に広告が出る動画は13%の視聴者が停止しただけでした。
逆に言えば、読み込みに時間がかかる動画は55%の人だけが見て、最初に広告があると87%の人に見てもらえるということですよね。これは動画の冒頭に広告を入れることは視聴者がアリとみなしているということです。この停止率の違いについては、動画の読み込みに時間がかかる場合はどれだけ待てばいいか分からないが、最初に広告が流れる場合は待ち時間の見当がつくからと考えられています。
また、広告を全部見る割合は、平日と土日では特に変わらないことも分かりました。平日は忙しいし、土日は時間があるといった差も考えられましたが、そのような差はないようです。
私も動画には注目していますが、うちの塾ではYoutubeで多少動画をアップしていますが情報提供といったレベルで、まだYoutubeを活用できているとは言えません。また、動画活用といっても、個々人の経験や神話レベルの話がまだまだ多く、データから実証的に有効といった手法はまだまだ明らかになっていないように思います。今回は、アカマイ社から提供された匿名化されたデータを元にした研究のようですが、これからもこのようなビッグデータ的な研究が増えると、より消費者の行動がわかっていきますよね。楽しみです。
この記事はマサチューセッツ大学の"UMass Amherst Researcher Quantifies the Effectiveness of Video Ads"を参考に書きました。
(文: やまざきしんじ)
2013年10月03日
1杯のワインの心理学
普通の人は、グラスに1回注がれたら、それが一杯と考えます。「昨日の飲み会でどのくらい飲んだ?」と聞いたら、「ビール3杯くらい」とか「ビール4杯くらい」とか答えるでしょう。でも、1杯ってどれだけですか?でも、「ビール800ml飲んだ」と答える人はいないでしょう。
では、コップ1杯っていつも同じなんでしょうか?
今日はアイオワ州立大学の准教授Laura Smarandescuらの研究を紹介します。これは、ダイエットの心理学で有名なコーネル大学のBrian Wansinkとの共同研究です。
この研究では被験者に様々なグラスに1杯注ぐように言われました。
まず、普通よりも広いワイングラスには平均で12%多くを注ぎました。この実験はよく似たものをWansinkが以前に行っています。細いグラスと太いグラスでは、経験のあるバーテンダーでも注ぐ量が違うというものです。子どもにジュースをあげる時には、細いコップを用意しておくのがよさそうですよね。
これは人は幅よりも高さに注目するということです。そのために細いグラスからにはあまり多く注ぎません。コップに入れた液体の体積は、1/3x半径x半径x高さという式で表され半径の影響が大きい(2倍の高さだと体積は2倍だけど、コップの幅が倍になれば体積は4倍になる)のですが、直感はこの計算式とのズレがあるようです。
また、透明なグラスには赤ワインよりは、白ワインを9%多く注ぎました。以前、お皿の色とパスタソースの実験というものがありましたが、似たようなものですね。透明なコップに注いだ時、コーラの方が、サイダーよりも少なく注ぎそうですね。
ちなみに、グラスを手に持って注ぐのとテーブルにグラスを置いて注ぐことと、テーブルの大きさはあまりありませんでした。
ここまで、1つのコップに注ぐ量ということを書いてきましたが、実際に人は「300ml飲んだ」から満足するというよりも、「1杯飲んだ」、「2杯飲んだ」といったような認知が影響を与えています。お酒を飲み過ぎないように、家では小さめのコップで晩酌をするのがいいのではないでしょうか?缶から直接ビールを飲むよりも、コップに移して飲むというのも、飲んでいることが見えるので効果のあることですよね。
今回の研究に似たものとして、以下のものを以前に紹介したことがあります。
「小さなお皿と大きなフォーク」
「お皿の色でもダイエット」
「ダイエットには骨付きチキン?」
この記事はアイオワ州立大学の"Over the limit: ISU researchers test how size, shape and color of wine glass affect how much you pour"を参考に書きました。
記事中の写真はFlickrのHeather Cowperさんの写真を使用しました。
(文: やまざきしんじ)