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【心理学実験で証明された目標に突き進むためのシンプルなテクニックのパワー】
私たちが時々人生で一番重要な目標から目を逸らしてしまう理由についてショート・ストーリーで説明しよう。きっとあなたにも見覚えがあることだろう。
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上司にもうんざりし、あなた自身も仕事に行き詰まっていて、転職を考えている。
数週間経つにつれて、本当にあなたの価値を認める組織で働くことがどれほど素晴らしいだろうかと考える。
これはチャレンジすべき良い目標だと考えるようになった。
しかし…
現在仕事は多忙で、給料も悪くないし、家庭生活にはゆとりがない。
経済面については言うまでもないが、履歴書を書き直して別の職場を探し始める時間がもてるのはいつになるだろうか。
転職の話とは別に、あなたは以前から楽器を習おうかと考えていた。
レッスンや練習時間を考慮すると、面接に行く時間もないだろう。
数カ月が経過した。 あなたは転職することを忘れ、ピアノを習うことを空想しはじめる。
ハードワークの後に、音楽に没頭するのはすばらしいことだろう。
不幸なことに、日常が再び邪魔をする。
電子ピアノの価格をネットで調べるぐらいしかできなくなった。
そして、あなたは人生で必要なものは一体何だろうか…などと悩みはじめる。
6ヶ月後、あなたは再び転職しようとする。
しかし、まだこれらの目標に対して現実的なスタートは切っていない。
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このように書いていると、数行に圧縮された6ヶ月の中で、明らかに目標に対するコミットメントがないことが問題だ。現実には、対処すべき日常生活もあるので、このパターンを見抜くことはもっと難しいだろうが…。
人生の目標を達成できない一つの大きな理由は、コミットメントの欠如である。この記事では、どうやって人生を変える有益な目標にコミットできるよう自分を動機づけるかを示唆する心理学実験を説明する。
■現実チェック
別の記事で、将来を空想することの危険性について見た。
ここで示すGabriele Oettingenと共同研究者の一連の実験でも空想と関連するものであるが、今回取り上げる研究では現実の適切な量と組みわせた。 (Oettingen et al., 2001).
研究者たちは、136人の参加者を3群に割り当て、問題解決法に対する異なる思考法を提示した。この場合の問題とは対人関係に関するものであった。
1 ポジティブ群: 問題が解決された前向きなビジョンを想像する
2 ネガティブ群: 現在の状況のネガティブな側面について考える
3 メンタルコントラスト群: 最初に問題が解決された前向きなビジョンを想像し、それから現実のネガティブな側面について考える。両方を考えることで、参加者は空想と現実を比較する「現実のチェック」を行うよう求められる。
重要なことは、参加者は目標に対する成功の期待についても尋ねられたということである。
研究者は、コントラストのテクニックは、アクションの計画を行うことを促進させるという点と、責任を取るという点で一番効果的であることを明らかにした。ただしこれは成功期待が高い場合のみであった。対人関係の問題を解決できる期待が低い場合には、メンタルコントラスト群の参加者は、プランも少なく、責任をを取ることもあまりなかった。
メンタルコントラスト条件は、その目標が現実的に達成できるかどうかを決定させる力があるようだ。そして、もし成功すると期待できれば目標にコミットする。そうでなければ、目標をあきらめる。
このテクニックを使用すると、思考だけでなく感情にも同じことが生じる。
第2実験では、メンタルコントラストのテクニックは、成功が期待できるときには感情的にもコミットさせ、期待できない時には目標をあきらめる効果を持っていることを示した。ポジティブ群やネガティブ群では、こういった情緒的投資はなかった。
第3実験では、メンタルコントラスト条件の参加者は、それ以外の参加者よりも精力的で素早く行為を行うことが明らかになった。そしてやはり、成功が期待できない目標にはコミットしなかった。
■なぜメンタルコントラストが難しいのか
一種の現実チェックを行うことは、ストレートなテクニックのようだ。しかし、他の研究からそれが間違いやすいことも知られている。
将来に対するポジティブな空想は最初に、そしてその後に現実のネガティブな側面を考えなければならない。そして、空想と現実の差を注意深く考えることが重要だ。ある研究では、空想と現実を比較しないなら、このテクニックは役にたたないことを示した(Oettingen & Gollwitzer, 2001)。
空想と現実のギャップを明確にしなければならないもっともな理由がある。私たちは不一致を指摘されることを嫌うからであり、そして、それを避けるためにあらゆる心理的な歪曲を試みようとする。心理学者はこれをこの認知的不協和(互いに相いれない思考や行為に対す心理的不快感)と呼ぶ。
空想と現実を一緒に並べることを避けるのは、私たちの自然な反応だ。なぜならば、それは不快だからだ。突然行うべきことがらが明らかになると、それを知ることは憂うつにさせる…きっとやるべきことがたくさんあるだろう。さらに悪いと、私たちの目標は役立たないという事実に直面しなければならないこともある。
このテクニックが難しいもう一つの理由は、人はハッピーな思考から不快な思考へシフトするのが嫌いだということだ。私たちはハッピーなことについて考え続けたい。またネガティブなことを考えていると、ポジティブな思考へ切り替えることは難しい。
■心と頭
ちゃんと行われたならば、私たちに決断を強制するところがメンタルコントラストテクニックの利点だ。人は決断を避ける自然な傾向があり、失敗のない空想の世界にとどまることを好む。
メンタルコントラストは、私たちにこれが本当にあなたが求めたい目標か問い詰める。もしそうではないならそれを忘れて、別のことにうつったほうがいい。もし、成功する期待があるなら、心も頭もそれにコミットし、エネルギーと集中力を注いで即座に実行する。
そして、もし失敗を想像したなら後悔することを心配すべきだ。気にかけていないあいまいな目標とは、コミットしていない目標ということだ。他のことではなく、あることを行うと決断することは、認知的にも情緒的にも常に一種のリスクを伴う。ある目標達成に費やす時間は、別の目標に費やすことはできない。
一方、目標に対して十分にコミットできないなら、何かを達成することはできないだろう。メンタルコントラストのテクニックがあなたに求めるのは選択することだ。コミットすべき選択を選ぶことは、あなたの目標を現実にする旅路の最初のステップなのだ。(翻訳 山崎Y)
*この記事はPsyblogの「How to Commit to a Goal」の翻訳記事です。
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