2011年04月26日

シロクマのことだけは考えるな!

最近メディアで活躍している臨床心理士の植木理恵さんの著作です。

「メディアに露出しすぎる心理学者は信用ならない(特にバラエティ番組)」という偏見に毒されている私ですが、植木さんはアカデミックな心理学を学び・研究してきた背景を持つ臨床心理士。
きっと、ほんの少しの心理学の知識と大いなる主観的意見のみで人間の本質とやらを断言しまくる巷の「心理カウンセラー」とは一線を画した本物の心理学を紹介しているに違いない、という期待と願望を込めて読んでみました。

 この本では、特に実験や調査などによってエビデンスが示されている学習心理学や認知心理学の研究結果に基づいて、日常生活で役に立つ心理学の応用例を紹介しています。

 紹介されている心理学の知識も、心理学の教科書に必ずのっているような有名な理論から最近の研究まで網羅しながらも、膨大な心理学の知識をまとめあげ、かつ明日からすぐにでも使えるノウハウに落とし込んでいます。

 たとえば、スティンザー効果。

 スティンザー効果とは、アメリカの心理学者スティンザーが提唱した現象で、彼は会議の成否と座る場所の関係を示しました。

 スティンザーの研究で明らかになったのは以下の2点。
1.向かい合った人どうしは、相手の発言に反論しやすい
2.隣に座った人どうしは、同調しやすい

この実験結果から、著者は会議で自分の意見を通したいときの場所取りに関してこんなふうにアドバイスします。

1.真っ向勝負になる真正面には、同じ意見の「味方」を配置
2.意見の異なる相手は、その隣に座って同調ポジション


スティンザーの研究結果から過剰な飛躍をすることなく、かつ日常的に取り入れやすいアドバイスではないでしょうか。

このように、この本の中では実際の心理学理論や研究例を紹介した上で、日常生活でどのように活用するか具体的にアドバイスしてくれます。

と、私としては期待以上に面白く読みました。が、いくつかの心理学的知識に間違いがありました。

特に気になったのが、
1.認知心理学のエリスのABC理論が発端であると述べていますが、エリスのABC理論は論理療法の基本理論であり、その後の認知行動療法の発展に貢献はしていますが、認知心理学とは無関係。

2.カクテルパーティ効果の具体的実験例として挙げられている研究は、明らかにカクテルパーティー効果で説明できる実験ではない。

細かいことを言えば、ほかにも「その理論をこの現象にあてはめるのは無理があるのでは…」と思うことが何度かあったのですが、一般向け書籍なので多少の飛躍には目をつぶるべきでしょうか。
が、少なくとも上記の2点は、心理学の基本的な知識がある人間であれば、安易に指摘できるレベルの基本的な間違いです。

 もちろん、心理学の領域は広範ですべてに精通することは至難の業ですが、自ら「心理学オタク」と自称するからには、もうちょっと調べてから書いてほしかったな…と、ちょっと悲しい読後感を持ちました。

(文: 山崎Y)

シロクマのことだけは考えるな! 人生が急にオモシロくなる心理術
植木 理恵
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posted by さいころ at 12:03| Comment(0) | TrackBack(0) |
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