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メールと手紙では、人はどちらがより嘘をつくのでしょうか???
デポール大学のCharles Naquinらの研究によると電子メールの方がより嘘をつくようです。この研究では、独裁者ゲーム(dictator game)の変形を使って行いました。
通常の独裁者ゲームというのは、100ドル持っている独裁者が、受領者にお金を配分する金額を決めます。受領者はこの金額を受け取るか、自分が受け取らない代わりに独裁者もお金をもらえないか、を選びます。例えば独裁者が自分が70ドル、受領者が30ドルと配分を決めます。受領者はこの30ドルをそのままもらってもいいし、自分ももらえない代わりに独裁者ももらわない、という選択をします。
受領者が、完全に合理的(?経済学的?)な人間ならば1ドルでも貰うのが合理的ですが、実際には99ドルと1ドルの配分は”公平でない”とみなすので1ドルの場合は受け取らないことを選択します(そのため独裁者もお金をもらえない)
Naquinらの変形独裁者ゲームは、独裁者が受け取る金額を100ドルで固定するのでなく、5ドルから100ドルの間の何ドルもらえるかを独裁者は知っているが、受領者には知らされないというものです。受領者は10ドルもらったとしても、独裁者がどのくらいの金額から配分したか分からないので、どのくらい公平なのかが分からない特徴があります。
この変形独裁者ゲームを48人の学生で行いました。この時に独裁者は受領者に元の金額を伝えますが、これを被験者の半分は手書きの手紙で、残りの半分は電子メールで行いました。
すると、独裁者が配分者に嘘をついたのは、電子メールで92%、手紙で64%でした。また、この嘘の申告額も電子メールの時は平均30ドル少なく申告しましたが、手紙の場合は21ドル少なく申告しました。つまり、この場合は電子メールでは嘘の大きさも1.5倍で、さらに嘘をつかなかった人は1/4だったと言えます。
Naquinはこの説明を自己効力感や社会的学習理論で知られているバンデューラ(Bandula)のモラル離脱(moral disengagement)フレームワークから説明をしています。これは、人はその行動の結果との心理的距離が離れていることで、標準的なモラルからより逸脱するというものです。電子メールを使うことで、手紙を手書きするよりも、嘘との心理的距離が離れることが原因ではないかと考えられます。
※このバンデューラのモラル離脱についてはまた別途記事を書くつもりです。
この実験はネット上と現実世界での行動の差異の説明の手がかりになりますが。また、嘘をつかれないためには、メールでなく、手書きや電話を使うほうが良いということも示唆されます。
この記事はPsychology Todayの"Telling Lies: Email vs Pen and Paper"を参考に書きました。
(文: SY)