2011年10月10日

意思決定の行動経済学


今月のDHBR(ダイアモンドハーバードビジネスレビュー)2011年11月号に行動経済学で有名なダニエル・カーネマンらが”意思決定の行動経済学”という記事を書いていたので紹介します。

この記事は、意思決定においては、直感的なシステム1と合理的なシステム2の2つから行われており、様々な認知バイアスの影響をうけるためにシステム1の結果をシステム2で見直すことが大事であるとしています。

そして、この合理的なシステム2によって、直感的なシステム1を律するための12の質問を紹介しています。なお、説明部分は新しく書き起こしています。


1.提案チームが「私利私欲にかられて意図的に誤りを犯したのではないか」と疑われる理由はないか
自分は客観的に判断しているつもりでも、利己的バイアスによって”自分の”利益のために判断を誤っていないか?

2.提案者たち自身が、その提案にほれ込んでいるか
感情ヒューリスティックは、自分の好きなものはリスクを過小評価し、メリットを過大評価します。メリット・リスクを客観的に判断したつもりでも、好きなものや嫌いなものに対しては本当に客観的かどうかをチェックしなければなりません。

3.提案チームのなかに反対意見があったか
グループシンク(集団浅慮)というのは、集団で意思決定をする時にベストを求めるのでなく、集団で最も争いが発生しないような妥協点に落ち着いてしまうということです。

4.顕著な類似点が、状況の分析に大きく影響するおそれはないか
顕著性バイアスというのは目立ったものを重要視しすぎてしまうというものです。例えば、直近の成功例を過大評価してしまって、同じような選択をしたり。意思決定対象の分かりやすい点のみについて、検討を深めたりしてしまいます。

5.信頼できる代替案が検討されたか
確証バイアスというのは、自分のアイデアを支持するような証拠ばかりを集めてしまうという傾向のことです。最初に思いついたアイデアを検討していくと、そのアイデアを支持する方向にいってしまうので、他の案がないかを慎重に検討する必要があります。

6.一年後に、同じ意思決定を繰り返さなければならないとしたら、どのような情報が必要になるか。それがいま入手できるか
利用可能性バイアスは、利用可能なデータが全てのものであると考えてしまうことです。手元にあるデータだけでストーリーを組み立てるのでなく、どういった情報がさらに取得できるか?何が足りないかを検討する必要があります。

7.数字の出所を承知しているか
例えば相手の企業を買収する時に、買収金額の出所を確認する必要があります。数字を検討する時にはアンカリングを意識しなければなりません。人は最初に与えられた数字に影響を受けてしまいます。例えば、全く新製品の市場規模についての検討をする時に、仮に100億円と仮定して話を進めていくと、最後までその100億円の市場規模というのが頭に残ってしまいます。

8.「ハロー効果」が見られていないか
ハロー効果によって分かりやすい単純なものがすべての原因と考えてしまうのはよくあることです。例えば、トヨタの良さは全て”カンバン方式”に帰着させたり、あるIT企業の成功が実は製品投入のタイミングが良かったのを全て経営者の先見と見なして永続的な成長と見誤ったりすることがあります。

9.提案者たちは過去の意思決定にこだわりすぎていないか
過去の決定の埋没費用(サンクコスト)にこだわってしまい、間違いを続けてしまうということはよくあります。新しく始めた事業が今後ずっと赤字と予測されていても、「これまでこんなにお金を使ったから」と続けるというのはよくあることです。

10,基本となるケースは楽観的すぎないか
意思決定のほとんどは未来についての事柄です。また、未来の予測についてはリスクを過少に見積もったり、自分たちの能力を過剰に見積もったりします。また、自社のみが製品開発を進めて、競合企業は新製品を投入しないと想定してしまったりします。人は未来について楽観的ですが、意思決定においてはそれが予測を誤らせるのです。

11.最悪のケースは、本当に最悪なのだろうか
意思決定の際には、当然リスクを想定します。この時の最悪の事態に備えているつもりでも、実際にはそれ以上の最悪な事態が起こることはよくあります。人は、滅多に起こらないことは、全く起こらないと想定してしまうことがよくあるのです。過去100年で、第一次世界大戦、第2次世界大戦、ベトナム戦争、キューバ危機、人類初の月面着陸、ベルリンの壁の崩壊といったことがありました。このような大きなことが起こった場合にビジネスにどのくらいのインパクトがあるのでしょうか?

12.提案チームは慎重すぎないか
人はリスクについて過剰に評価する傾向があります。つまり、一度得たものを失うことを過剰に恐れるのです。そのためにほとんどの組織ではリスクを取ってでも、利益を取りにいこうとしなければなりません。


このような意思決定のバイアスは、本人が気づかない間に入り込んできます。これを合理的なシステム2によって、意思決定から取り除かなければなりません。

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(文: SY)
posted by さいころ at 09:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想法・問題解決
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