ただ存在するだけで周囲にただならぬ威圧感を与え、フォロワーたちに多大な影響を与える人。ヒットラー、スティーブ・ジョブズ、押尾学…カリスマは政治から芸能文化まで様々な場面で歴史を動かす。職場やコミュニティといった小さな集団の中でも、カリスマになりたいと思っている人は少なからずいるでしょう。
カリスマという存在については、心理学においてもリーダーシップの研究領域で取り上げられることもありますが、研究の難しさからか研究自体それほど多くはありません。
そんな中、カリスマという存在に大胆にアプローチしたのが本書「カリスマ入門」です。(ただし、この本は心理学の研究ではありません)
冒頭にはこんなことが書いてあります。
「人々がありがたがっている「カリスマ性」の正体が、あくまで具体的なテクニックの集積、そして演出の積み重ねによるものであること、またはそれと同様・同等のものが、獲得可能であることを、証明するものです」
カリスマ性とは天性のものではなく学習可能なスキルである。存在感も薄く華も仁徳もないあなただってカリスマになれるのです。
すでに半分カリスマになったかのような気分でページをめくっていくと、すぐマネできる怒涛のカリスマテクニック全16個。芸能界などでカリスマと呼ばれる人物たちのエピソードもふんだんに紹介されていて、カリスマになるためのポイントが手に取るようにわかります。
・先取りアピール
→今流行のモノなどは「流行る前から私は目をつけてましたよ」とアピールすることで世の中の先見の明をアピールする。「え?これ流行ってるの?俺この服5年前から着てるんだけど」「ブログもみんながやりだすようになったら、なんか飽きてきちゃって、逆に」など。
・スピリチュアルなものに傾倒する
→うすっぺらい人間と思われないようにスピリチュアルなものに傾倒し、深みのある人間に見えるようにする。突然「インドいきてぇー」とか言ってみるなど。
上記のようなアピールをとにかくガンガンやっていくことがカリスマへの道です。
しかし賢明な読者なら読み進めるうちに「カリスマってうすっぺらいな、逆に。」と思うようになるでしょう。さらに著者が全くカリスマという存在に傾倒していないことにも気づく。そもそも「カリスマ」の要素を分析、分類するという行為は、カリスマの神秘性を無効化することです。
本気でカリスマを目指していた人にとって、この本を読むことは悲劇です。カリスマになりたくて読んだはずなのに、この本を読んだあとでは、これまでに自分が無意識的にやっていたカリスマアピールに恥ずかしさを感じ、使えなくなってしまうでしょう。
その一方で、周りのカリスマっぽい人を無防備に信仰することを本書は阻止してくれるに違いありません。カリスマぶってるあの人やこの人の発言は、すべて本書の中でテクニックとしておさめられています。世のほとんどのカリスマは、単にカリスマアピールをしまくっているだけの「単なる普通の人」だということに気づくでしょう。
世の中には自分の私利私欲のために意識的にか無意識的にかカリスマアピールをすることで他人を搾取しようとする人もたくさんいます。そんな人から自分を守る防衛スキルとして読むのがもしかすると正しいのかもしれません。
カリスマ入門は、DVDにもなっています。放送大学っぽい作りです。
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(文 山崎Y)