子供の頃はよく兄弟喧嘩をして兄貴に泣かされていましたが、大人になってからは人となぐり合いをするといったこともなくなりました。
それでは大人になったら痛みは経験しないのでしょうか?
カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)のNaomi Eisenbergerの研究によると、会社や組織で無視されるといった社会的な痛みが肉体的な痛みに近いようです。
人に無視をされた時に脳をスキャンすると、肉体的な痛みを感じる部位と同じ前帯状皮質(dorsal anterior cingulate cortex)が反応しました。つまり、社会的な痛みと肉体的な痛みはかなり近いものと考えられます。
ちなみに、この手の「脳のXXとXXは似た部位だから、**だ」といった言説は最近はよく見かけます。ネット上には「**を司る部位はXXなので、こういうことをすると**に効く」といった適当な言説もよくみかけます。
それでは、この社会的な痛みと肉体的な痛みの部位が同じことから、どのようなことが言えるのでしょうか?
Eisenbergerの研究では、物理的な痛みを抑えることができるアセトアミノフェン(タイレノールという商品名は有名ですね)を投与した場合と、偽薬(プラシーボ)を投与した場合で、社会的な痛みにどのように影響を与えるかを調べました。すると、アセトアミノフェンを投与された人は、社会的な痛みがあっても前帯状皮質の反応が抑えられました。
この研究では、脳のスキャンから社会的な痛みと肉体的な痛みが非常に近い要素があることを解き明かしました。個人的には、このような神経科学的なアプローチはあまり好みではないのですが、それでも、結果は明確ですし、この研究は面白いですね。
この記事は以下の論文を参考に書きました。
Naomi Eisenberger, 2012, "Broken Hearts and Broken Bones: A Neural Perspective on the Similarities Between Social and Physical Pain", Current Directions in Psychological Science 21(1) 42–47
(文・絵: やまざきしんじ)

