
今回紹介するのはノルウェイスポーツサイエンス学校のGeir Jordetのプレッシャーに関してPKから調べたという研究です。これは1976年から2007年のワールドカップ、ヨーロッパ選手権、UEFAチャンピオンズリーグの37大会の366回のPK(ペナルティ・キック)を対象としたものです。
FIFAプレイヤーオブザイヤー、ワールドカップ得点王、バロンドールのそれぞれ3位までの選手とUEFAの選んだポジションごとの年間最優秀選手、南アメリカ年間最高選手のいずれを取った選手を、実績のある選手と考えます。
例えば昨年のバロンドールの3位までの選手はメッシ、クリスティアーノ・ロナウド、イニエスタの3人で、2010年のワールドカップではミュラー、ビジャ、スナイデル、フォルランの4人が5点を取っています。ここに挙げただけでも、全員がワールドクラスの一流の選手であると言えそうです。
この研究ではPKの73.8%が成功し、26.2%が失敗していました。ちなみにポジションごとの成功率はフォワードは80%、ミッドフィルダーは72.9%、ディフェンダーは67.7%です。これは納得できる数字でしょう。フォワードの方がキックが上手く、鋭いシュートを決められそうですし、一方でディフェンダーはあまりキックのうまくない選手がいます。
そして、ここからがポイントですが、実績のある選手は、実際に受賞をする前には88.9%PKを決めていました。これは平均的なフォワードよりもかなり良い数字です。さすがに一流プレイヤーといったところでしょうか。しかし、実際には受賞をした後にはこの数字が65.0%にまで下がってしまうのです。
どうやら一流プレイヤーはPKにおいては一流ではないようです。もしかするとこれはリーグ戦などのよりプレッシャーのかからないシーンでは別かもしれません。しかし、ワールドカップやチャンピオンズリーグのような大事なシーンでは、一流選手は、二流選手以下に変わってしまうようです。ただし、受賞前にはPKでも一流のようなので、”名前”がプレッシャーになっているようですね。
これは、「当然、決める」というプレッシャーと考えられます。試合などでは「絶対勝てる」選手がプレッシャーなどで往々にして驚くような負け方をすることがありますが、このPKの結果はそれを示していそうです。
PK失敗といえば、ベッカムやバッジョが思い出されるかもしれませんが、65%というと意外と低いんですね。
この記事はGeir Jordetの"When superstars flop: Public status and choking under pressure in international soccer penalty shootouts", Journal of Applied Sport Psychology 2009を参考に書きました。
(文: やまざきしんじ)