2012年07月09日

無知の知について思うこと


ちょうど読み返している本の中に”無知の知”という言葉について出てきました。このギリシアの哲学者ソクラテスの”無知の知”という言葉は有名だと思います。グーグルでのヒット数も約 2,150,000 件とかなり多く、約 2,080,000 件ヒットする”インスタント焼きそば”よりもメジャーな言葉かもしれません。

それでは、この無知の知という言葉は私たちにどのような示唆を与えてくれるのでしょうか?


1つめは”巨人の肩に乗る”ということです。この言葉は12世紀にシャルトル学派を作り、またリベラルアーツを制定し、現在の大学の基礎を作ったシャルトルのベルナールの言葉です。私たちは自分が小さな力しか持たないことを自覚して、巨人(過去の学問の成果)の上に乗るということです。この巨人の肩の上に乗ることで、私たちは巨人よりも、さらに遠くを見通すことができるようになります。

世の中に多くの研究・知識があるので、それに背を向けて自分で考える必要はなく、それを踏まえて考えるということが必要ではないでしょうか?スポーツならば実践重視でいいと思いますが、それ以外の様々なことを実践重視しすぎているのではないかと思います。自分の頭で考えるということを過度に強調する人もいますが、きちんと過去の知識や知恵の上で考えることが大事だと思うのです。


2つめは、自分が間違っているかもしれないのだから、間違いを指摘される仕組みを作ることです。自分が正しいという確信を捨てて、無知の中にあるという自覚を持つことが大事です。

これは自己批判が大事であることと同時に、他者からの批判を受け入れやすくするということです。この批判を受け入れるということは、続く人に自分の肩を貸すということでもあります。そもそも、自己批判をしていない人の肩の上は怖くて乗れませんから。また、自分が正しくないのに、正しいかのように振舞ったり、正しいかどうかを追求しようとしないのは、知的な意味で不誠実でもあります。
残念ながら、多くの場合は「批判を受け入れる」ことを良しとしていても、実際に批判を受ける機会を作っている人は多くありません。


無知の知という言葉は非常に有名でしばしば言われることですが、実際に無知の知というものを真摯に受け止めていきたいと思います。


(文: やまざきしんじ)
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2012年06月25日

人は**種類に分類できる?


昨日おこなったさいころセミナー「性格の心理学」の発表内容から性格のタイプ分けの疑問について書いていきます。これは「性格のタイプ分けって意味あるの?」という疑問です。


まず、タイプ分けでは、よく5つや12に人を分類するものがありますが、これがよく分からないというのが私の疑問です。例えば2つの特徴から、人を3種類に分けることを考えてみましょう。

性格の心理学.034.jpg

そうすると、どうして、その3種類に分けたのかという問題がどうしても出てきてしまいます。下のように2つや4つに分けるならば納得なんですが..

性格の心理学.035.jpg

というわけで、もし皆さんが人の性格をタイプ分けしたい時は、2,4,8,16といった2のべき乗になるように分けましょう。これだと、僕もスッキリします:-D



また、そもそも人を何かの特性をもとに何種類かに分ようとするときの別の問題があります。人の特徴を2次元で表したとすると、それぞれの性格は大きく違うというよりは平均に近いと考えられます。

性格の心理学.037.jpg

もし上の図の左というよりは、右のようにみんな性格が近いはずですよね?

それならば、無理にタイプに分けてしまうと、実際には線上にいる(どちらのタイプとも言える)けど、どちらかのタイプに無理矢理分類しないといけなくなってしまいます。なので、単純にタイプに分けるより平均からどのくらい違うのか(偏差値がどのくらいか)を知るのが大事ではないかということです。

性格の心理学.038.jpg

結局、人の性格なんてほとんどの人が比較的似通ったあたりにいるはずですし。


人の性格を4つのタイプに分けるとか5つのタイプに分けるよりも、個々の特徴のパラメータがどのくらいかを教えてくれることが役に立つんじゃないか、ということですね。


あなたは「大らかで優しいゾウさんタイプです」というよりも、あなたの寛大さは偏差値52で、優しさの偏差値は55です、という方が役に立ちそうです。


ただ、人を何種類かのタイプに分けるというのはバツグンに分かりやすいので、思わずタイプに分けちゃったりするし、そのためにタイプ分けがたくさん世の中に出回っちゃうんでしょうね...


(文・絵: やまざきしんじ)

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2012年06月10日

世界は生成されている

iPadが発売されてから約2年2ヶ月ですが、現在タブレットPCは”価格.com”で検索しただけでも119の商品(同一製品の別モデルや色違いも含みます)があります。実際に家電量販店に行っても、かなり多くの商品が棚に並んでいるのではないでしょうか?

このような商品サイクルは昔よりも早くなっています。以前は、2年間ごとに出ていた電化製品の商品開発サイクルも、今は1年やそれ以下になっています。


また商品サイクルが早くなるだけでなく、それぞれの分野の商品数もどんどん増えています。以前は各商品で3モデルくらいしかなかったのですが、例えばパナソニックの家庭用の電子レンジは、現在15種類あります。さらにモデルによって色違いもあります。


これは何を意味するでしょうか?


これは利益の機会もどんどん減っていることを意味します。

タブレットPC市場はわずか2年で20社以上のメーカーがひしめき合う市場になりました。新しい市場が出来ても、あっと言う間にメーカー間の競争が激化します。

また、以前は同じ市場で3種類のモデルだけ売っていればすんでいたのが、15種類のモデルを投入すると商品開発や在庫の分だけ利益が減ります。


経済学では「フリーランチはない」という有名な言葉がありますが、市場のフリーランチは以前と比べても急速に減りやすくなっています。


これに負けないためにはどうすればいいのでしょうか?2つの考え方がありますが、方向性は似ています。1つめは、新しい価値をどんどんと生み出していくことです。もう一つは、新しいニッチをどんどん探していくことです。他のメーカーが参入してきても、市場の中に隙間はあるので、その隙間を常に探して移動していくことです。


大事なことは、常に逃げ続けることです。隙間は実際には存在しないものなので、新しい価値を持った商品が隙間を創りだしていきます。


そのためには商品をこれまでの延長でなく、新しい価値を創り続ける必要があります。新しい価値を創ることで、市場のニッチに逃げ続けます。

ニッチは隙間ではありますが、適切な隙間は同時にどんどんと生成されていきます。つまり、適切な(≒ニーズのある)ニッチならば、単なる小さな隙間でなく、大きく広がる可能性があるのです。

コンピュータもコピー機もトランジスタも最初はたくさん売れるとは思われていないニッチ製品だったのですが、実際にはたくさん売れ。次第に、ニッチ市場という言葉ではまとめられないほどの市場規模となりました。つまり、適切なニッチはニッチでありながらも、市場を引き伸ばしていくのです。


では、どうやってニッチ市場にあう製品を創るのでしょうか、そのために必要なものが、創造性と顧客の観察の2つです。この2つを駆使して、新しいニッチに逃げ続けていく必要があります。

(文: やまざきしんじ)
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2012年06月05日

たくさん出す以外のアイデアの出し方


前回の記事では、できるだけたくさんのアイデアを出すということを書きました。それでは、たくさんのアイデアを出す以外の方法はどういうものがあるでしょうか?

まず、その前に、アイデアの種類について考えてみましょう。例えば、ダンボールの使い方についてアイデアを出す時に、
・タンスを作る、カーペットにする、家を作る、本棚代わりにする
というアイデアと
・燃料にする、戸棚をつくる、カンバンをつくる、ラケットとボールをつくる
というアイデアの2つがあった時には、下の方がいいアイデアです。

上のアイデアは全て「入れ物」「家具」といった一つのカテゴリのアイデアなのに対して、下のアイデアは「材料」「入れ物」「遊具」といった様々なカテゴリのアイデアです。


アイデアをずっと出していると、実は様 々なアイデアを出しているつもりでも同一のカテゴリの似たようなアイデアを出しているだけということになってしまうかもしれません。自分で出したアイデアを一度見直して、聞いたことのあるアイデアや、出したアイデアに似たようなアイデアがないかを考える必要があります。

それでは、様々なアイデアを出すにはどうすればいいのでしょうか?一つの方法は、たくさん出してから、さらにたくさん出すというものです。例えば、自分の事業のアイデアについて10分でいろいろアイデアを出すとします。10分経っても、まだアイデアがちょこちょこ出るならばさらに5分なり10分アイデア出しをします。20分経って手が止まりかかったら、それから20分アイデアを出すと、様々なカテゴリのアイデアが出やすいです。つまり、アイデア出しは一度手が止まってから、さらにアイデアを出し続けるのがポイントです。


また、別のアイデア出しの方法としては、アイデア出しを遠ざけるというものです。アイデアを出す時には、「自分のこと」としてアイデアを考えるよりも、「他人ごと」としてアイデアを考える方が有効です。物事をできるだけ客観的に見て、対象との心の距離を離した方がいいアイデアが出るのです。

「ダンボールの使い方」のようなアイデアを出す時はいいのですが、「自分の会社の新製品」を考える時は、「自分の会社のリソース」をいろいろと考えてアイデア出しをすると、これまでの経験から似たようなアイデアになることが多いです。このような場合は、自分の会社のリソースをリストアップしてから、そのリストを眺めながら「他人の会社の新製品」をアドバイスするコンサルタントのつもりで考えることが有効です。


また、別の手法としては、アイデアに変わった制約条件をつけるというものです。変わった制約条件というのは、例えば「自分の経営する喫茶店の新メニューを考える」という課題があった場合は、「南極に新しくオープンする喫茶店のメニューを考える」、「誰もオーダーしないけど魅力的な喫茶店のメニューを考える」といったように、ちょっと変わった条件を自分でつけるのです。特に、「誰もオーダーしないけど」とか「イマイチだけど」のようにマイナスの条件をつけるのがオススメです。

このような条件をつけることで、普段は思いつかない変わったアイデアが出やすくなります。


ビジネスにしろ、プライベートにしろ多くの人がアイデアを必要としています。素晴らしい問題解決をする、ありきたりでないアイデアを出すためには今回挙げたような、手法を使うことがオススメです。


(文: やまざきしんじ)
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2012年05月31日

存在しない市場は分析できない


心理学のニュース以外にもまとまった文章を少し書いて行きたいので、少々書いていこうと思います。



もし、あなたが「新しい自動車を開発しろ」と言われたら、どうやって開発するでしょうか?様々な自動車の試作品を作って、お客さんに触ってもらうんでしょうか?それでは、どうやってその”様々な自動車の試作品”を開発するんでしょうか?

お客さんに「どういう自動車が使いたい?」と聞いて回りますか?それとも自分で好きな自動車を作りますか?

私が商品開発をした時は「自分が好きなものを作る」ことを重視して企画・開発しました。商品設計で悩んだら「自分が欲しいものはどういうものか?」を考えて決めていました。自分の欲しいものとお客さんに受け入れられるもののバランスは取らないといけませんが、あくまでも自分で欲しいものを新しく作るということが大事なことだと思います。


もし、海を知らない人に海水の使い道を考えてもらうと、どのようなアイデアが出てくるでしょうか?海水自体を分析すれば、海水が塩水からなっていることは分かります。海水を蒸留して塩を作るといったアイデアが出るでしょうが、海水をいくら分析しても「海水でくらげを飼う」というアイデアは決して出て来ません。海水をいくら分析しても、海水にはくらげが含まれていないのです。

新しい自動車を作る時も同様なことが言えます。これまで世の中に出ている自動車の問題点をリストアップすれば、それなりにいいものができそうです。しかし、このような考え方では、7人乗りで、高性能のエンジンで、しかも燃費がよくて、荷物がいっぱい載せられる、オープンカーを開発といった決定になりそうです。売れなさそうな気がしますが、実際に作ったらすごく高価な商品になりそうです。

結局、これまでの自動車をいくら分析しても、そこから新しい自動車は生まれないのです。


それでは、分析じゃなくてどういう手法なんでしょうか?その答えは、”結合”です。複数のものを組み合わせることで新しいものが生まれていきます。「カセットデッキ」と「持ち出す」を組み合わせることで「ウォークマン」は開発されましたし、「地雷除去ロボット」と「掃除機」を組み合わせることで「ルンバ」は生み出されました。

「カセットデッキ」を「持ち出す」のは考えれば出てきそうなアイデアですが、「地雷除去ロボット」を「掃除機」にするにはどのような方法があるんでしょうか?このキーワードは、発散思考です。アイデアを発散させていくのです。そのための最も有効な方法は、「なるべく多くのアイデアを出す」です。「たくさん出す」を意識することが大事なのです。


「たくさん出す」以外の方法はどういったものがあるのでしょうか?

それは次の記事で。

(文: やまざきしんじ)
posted by さいころ at 11:35| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム