2014年11月07日

【カリスマの科学第2回】カリスマは2秒待つ

問題
 どちらの方がカリスマ上司になりやすい?
 A. 部下の意見を聞かず、自分の決めた目標をひたすら突き進む上司
 B. 部下の意見にじっくりと耳を傾ける上司


世界の名だたるカリスマリーダーには話上手な人がたくさんいます。例えばスティーブ・ジョブズの説得力あるプレゼンテーション、あるいはヒットラーの力強い演説などはすぐに頭に浮かびやすいカリスマ像です。そのため、カリスマには「明確なビジョンを雄弁に語る話し上手」というイメージが強くあります。

 もちろん、明確なビジョンがあることはカリスマリーダーにとって重要です。相手にメッセージを効果的に伝える話術も欠かせません。しかし自分が話す一方で、周りの人の話を聞かない人はカリスマリーダーとしての条件に欠けています。そもそも、そういった人は集団を率いるリーダーになるチャンスすら逃しているかもしれません。
 Alexsander Haslamの研究は、「自分にはリーダーになる素質があるし、周りの人の意見なんて聞く必要はない」と思っている人は、リーダーとして選ばれにくいことを明らかにしました。集団のトップに立つだけの実務能力に優れていたとしても、唯我独尊で、他人の意見に耳を貸さないリーダーには誰もついていこうとは思わないのです。
 


 カリスマ流聞く技術
 では、周囲の人の話を聞くことにはどんな効果があるのでしょうか。他者の意見を真摯に取り入れることでよりよいアイデアが生まれるという実際的なメリットもありますが、それ以上に、相手との心理的距離感を縮め、信頼関係を構築できるという効果があります。
 しかし、組織でのポジションが上になるほど、また能力の高い人ほどこの「聞く技術」が不十分であることが多いように感じます。あなたは人との会話中に、相手が話している途中で割り込んだりしていませんか?これは話している相手に対して「あなたの話には聞く価値がない」「私はあなたを評価していない」というメッセージを発しているようなものです。たとえ相手の話す内容についての質問であっても、まずは相手の顔を見てじっくりと話を聞いてください。そして、話し終わった後で、質問をするようにしましょう。
  そして、聞く技術としてもう一つとても効果のあるテクニックがあります。
 それは、「相手が話し終わって2秒経ってから話しはじめる」です。
 相手の話を最後まで聞き終えても、相手がしゃべり終えたまさにその瞬間に話し始めてしまっては、まるで相手がしゃべり終わるのをまだかまだかと我慢して聞いていたかのように思えます。相手が話し終えてから少し間をおいて話し始めることで、相手は「この人は私の話をしっかり聞いてくれている」と感じ、あなたに対する信頼感もぐっと高まります。
聞き上手になるには日々のトレーニングが大切です。特におしゃべりな人は、人と話すときに「少し普段より静かにしてみる」「あいづちや返答をいつもより少し間をあけてからしてみる」などから試してみてはいかがでしょうか?

問題の答え
 どちらの方がカリスマ上司になりやすい?
答え B. 部下の意見をじっくりと耳を傾ける上司
理由 周囲の話を聞く上司の方が信頼感を得やすいから。


<参考文献>
S.Alexander Haslam & Stephen D.Reicher(2012)In Search of Charisma,Scientific American MIND July/August 2012 p42-47

posted by さいころ at 13:50| Comment(287) | TrackBack(0) | カリスマの科学

2014年10月24日

【カリスマの科学第1回】リーダーにカリスマ性は必要か

問題 あなたはリーダーにカリスマ性は必要だと思いますか?
1.YES  2.NO


 とあるIT企業の「カリスマ」社長は、その圧倒的な存在感で社員たちを魅了し、職場は活気に満ち溢れています。社員たちの仕事に対するモチベーションは高く、業績も好調。そして今春、高齢者向けソーシャルネットワークサービスを新たにリリースしました。このサービスに対する社長の思い入れは強く、広告宣伝費も潤沢に使って全社を挙げて大プッシュしています。しかし、ネット利用がそれほど多くない高齢者にソーシャルネットワークサービスが普及するとはちょっと思えません。社員一丸となっての努力も空しく、このサービスは1年半後に静かに撤退しました。そもそも企画の段階で、このサービスに反対する人はいなかったのでしょうか。

  上記のIT社長(もちろん架空の例です)は、典型的なカリスマリーダーの例であり、カリスマの光と影を表しています。つまり、社員を活気づけ、より高いパフォーマンスを促進する光の部分と、集団をカルト化し、リーダーの方針に疑うことなく従わせてしまう影の部分がカリスマには共存しているのです。
 この影の部分を危惧し、「カリスマ性はリーダーには必要ない」という人もいます。「経営の神様」ドラッカーも「リーダーにカリスマ性はいらない」と著書の中で述べています。

カリスマ性と包丁は同じ?
 しかしそれでもやはり「リーダーにカリスマ性が必要か」と問われれば、その答えは「YES」です。 なぜならばカリスマ性は包丁と同じ「道具」にすぎないからです。包丁はおいしい料理を作るための大切な道具の一つです。カリスマ性も高い業績を達成するために社員のやる気とパフォーマンスを高めるために有効な道具と言えます。
 井田(1998)は、上司のカリスマ性と部下の仕事に対する意欲との関係を調査しました。その結果、ハードだけどやりがいのある仕事を目の前にしたとき、通常の場合部下たちの労働意欲は低下し心理的ストレスは高くなりますが、直属の上司のカリスマ性が高いと、こういった仕事に対する意欲も高まり、心理的ストレスも低くなるということが分かりました。
 このように考えると、やはりリーダーにとってカリスマ性は必須アイテムと言えるでしょう。
 包丁はおいしい料理を作るための素晴らしい道具にもなりますが、使い方を間違えれば人を傷付ける恐ろしい凶器にもなります。でも、「人を傷つけるかもしれないから、包丁の使い方を覚えるのはやめよう」と言う人はいるでしょうか。
 カリスマ性も使い方さえ気をつければ、周りの人の潜在能力を最大限に発揮する機会とやる気を与えてくれる優れた道具となります。
 ぜひ皆さんもカリスマ性という道具を使いこなし、周りの人を輝かせてください。

問題の答え
1.YES リーダーにカリスマ性は必要である。
理由
 カリスマ性のある上司は、部下をやる気にさせ、想像以上のパフォーマンスを可能にするから。


<参考文献>
井田 政則 1998 カリスマ的リーダーシップー共分散構造モデルを用いてー
立正大学文学部論叢108,73A-87A

【お知らせ】
11月15日(土)に「管理職のためのメンタルヘルスセミナー(入門編)」を開催します。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

posted by さいころ at 08:32| Comment(39) | TrackBack(0) | カリスマの科学