2011年12月14日

古屋雄作 『カリスマ入門』

カリスマ…憧れる人は多い。
ただ存在するだけで周囲にただならぬ威圧感を与え、フォロワーたちに多大な影響を与える人。ヒットラー、スティーブ・ジョブズ、押尾学…カリスマは政治から芸能文化まで様々な場面で歴史を動かす。職場やコミュニティといった小さな集団の中でも、カリスマになりたいと思っている人は少なからずいるでしょう。

 カリスマという存在については、心理学においてもリーダーシップの研究領域で取り上げられることもありますが、研究の難しさからか研究自体それほど多くはありません。

 そんな中、カリスマという存在に大胆にアプローチしたのが本書「カリスマ入門」です。(ただし、この本は心理学の研究ではありません)

冒頭にはこんなことが書いてあります。

「人々がありがたがっている「カリスマ性」の正体が、あくまで具体的なテクニックの集積、そして演出の積み重ねによるものであること、またはそれと同様・同等のものが、獲得可能であることを、証明するものです」



カリスマ性とは天性のものではなく学習可能なスキルである。存在感も薄く華も仁徳もないあなただってカリスマになれるのです。

すでに半分カリスマになったかのような気分でページをめくっていくと、すぐマネできる怒涛のカリスマテクニック全16個。芸能界などでカリスマと呼ばれる人物たちのエピソードもふんだんに紹介されていて、カリスマになるためのポイントが手に取るようにわかります。


・先取りアピール
 →今流行のモノなどは「流行る前から私は目をつけてましたよ」とアピールすることで世の中の先見の明をアピールする。「え?これ流行ってるの?俺この服5年前から着てるんだけど」「ブログもみんながやりだすようになったら、なんか飽きてきちゃって、逆に」など。


・スピリチュアルなものに傾倒する
 →うすっぺらい人間と思われないようにスピリチュアルなものに傾倒し、深みのある人間に見えるようにする。突然「インドいきてぇー」とか言ってみるなど。


 上記のようなアピールをとにかくガンガンやっていくことがカリスマへの道です。


 しかし賢明な読者なら読み進めるうちに「カリスマってうすっぺらいな、逆に。」と思うようになるでしょう。さらに著者が全くカリスマという存在に傾倒していないことにも気づく。そもそも「カリスマ」の要素を分析、分類するという行為は、カリスマの神秘性を無効化することです。


本気でカリスマを目指していた人にとって、この本を読むことは悲劇です。カリスマになりたくて読んだはずなのに、この本を読んだあとでは、これまでに自分が無意識的にやっていたカリスマアピールに恥ずかしさを感じ、使えなくなってしまうでしょう。

 その一方で、周りのカリスマっぽい人を無防備に信仰することを本書は阻止してくれるに違いありません。カリスマぶってるあの人やこの人の発言は、すべて本書の中でテクニックとしておさめられています。世のほとんどのカリスマは、単にカリスマアピールをしまくっているだけの「単なる普通の人」だということに気づくでしょう。

世の中には自分の私利私欲のために意識的にか無意識的にかカリスマアピールをすることで他人を搾取しようとする人もたくさんいます。そんな人から自分を守る防衛スキルとして読むのがもしかすると正しいのかもしれません。

カリスマ入門
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古屋雄作
太田出版
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カリスマ入門は、DVDにもなっています。放送大学っぽい作りです。
カリスマ入門 [DVD]
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(文 山崎Y)
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2011年09月06日

『不合理だからすべてがうまくいく』

不合理だからすべてがうまくいく―行動経済学で「人を動かす」
ダン アリエリー Dan Ariely
早川書房
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行動経済学者として有名なダン・アリエリーの本です。行動経済学というと、何やら経済学っぽいですが、ほぼ社会心理学の本と思ってもらっていいです。

と、同じ出だしになりましたが、先日書いた、『予想どおりに不合理』の続編です。

・職場での理屈に合わない不合理な行動
・家庭での理屈に合わない不合理な行動

という2部構成でまとめられていますが、基本的には前著の『予想どおりに不合理』と同様に様々な実験から、人の心理バイアスを解き明かしています。


特に前半の職場の話は、高すぎる報酬を提示するとパフォーマンスが落ちることをインドの村で実際に高い報酬を出して実験したことということや、働くことの意味の実験のためにレゴを使って1回ごとに壊した場合とそうでない場合にどのくらいレゴを作るかといった実験などが載っています。

それぞれの結論は人は完全に理性的という見方からすると予想外の、そして人間には様々なバイアスがあるという見方からすると予想通りの結論になっていますが。それでも、実際の数字と共に結論を出されると、企業でのインセンティブの与え方などに多くの示唆やアイデアを与えてくれます。


個別の結論や実験内容は有名なのでどこかで読んだものも多いのですが、ともかく高密度にこれでもか、と実験が載っています。そして、読んでいて思うのは、本当にダン・アリエリーは実験が好きなんだなー、ということです。普段、自分もさいころニュースを書いていると、様々な実験がしたくなります。残念ながら、実験を思いついても個人ではやる場所や機会がないんですが…

予想どおりに不合理[増補版]
ダン アリエリー Dan Ariely
早川書房
売り上げランキング: 8501



(文: SY)
posted by さいころ at 06:34| Comment(0) | TrackBack(0) |

2011年09月02日

『超!自分マネジメント整理術』

以前に『短期間で組織が変わる行動科学マネジメント』を紹介しましたが、この本も行動科学マネジメント研究所の石田淳さんの著作です。

 ビジネスパーソンの仕事上の悩みの上位には必ず「時間が足りないこと」がランクインするそうです。

 確かに私もやりたいことはあるけれどなかなか時間がうまく使えておらず、時間の使い方には常に悩まされています。

 本書は、効率的に仕事を行い目標達成を目指すための行動科学に基づいたノウハウを紹介しています。

目標達成のための流れは

@目標を具体化
「英語をマスターしたい!」という目標は漠然としているので、「2年後にトーイックで900点を取る」といった具体的な目標に変換する。

A小さい課題(行動)にブレイクダウン
目標を具体化したら、それを小さい課題に分解します。
例えば先ほどの「2年後にトーイックで900点取る」という目標であれば、「1年後にはトーイックで850点取る」という小さい課題を設定します。さらに課題を小さく分解し「半年後には800点取る」というように細分化していきます。

半年後 800点

1年後 850点

2年後 900点

そして、こういった目標のために日々必要な行動を設定します(例えば「毎日トーイックのテキストを3ページする」「毎日単語を3つ覚える」など)。

この時設定する行動は、目標に効果のある行動を選択することが重要です。これをピンポイント行動と呼びます。


B即時強化でご褒美
ピンポイント行動を行うたびにご褒美を設定することで、こまめに行動が強化され行動が持続されます。
ここでいうご褒美とはケーキやカバンといったお金をかけたものである必要はありません。
本書では、ポイントカードを作り、ピンポイント行動を行うたびにスタンプやシールを貼るという工夫をお勧めしていました。
シールは私も活用したことがありますが、確かに大人でもシールやスタンプはなぜか心が躍るのでいいアイデアだと思います。

これらの流れは、それほど斬新というわけではないかもしれません。特に目標を小さな課題に細分化するということはさまざまな自己啓発書などで奨励されています。

しかしB目標のための小さな行動にも報酬を与える、という工夫は職場でもなかなか導入されていないのではないでしょうか?

職場での報酬といえばボーナスなどがありますが、望ましい行動や結果の直後にもらえるわけではないので、それほど効果があるものではありません。
それよりも日々のピンポイント行動(アポイントの電話を1日20件した、など)を実行するたびに、ポイントカードにシールを貼るというこまめな強化を行う方がずっと効果的です。
上記の即時強化の考え方はいかにも行動科学の理論に基づいた発想です。

また、机の整理や職場の整理整頓ではビジュアル化することを提唱しています。
机の引き出しの整理ではモノを置く場所を決めておく、ということはよく言われていることですが、ちゃんとそろった状態をイラストなどで視覚化しそれをすぐ見える場所に貼っておくことで、どこに何を戻すべきかが瞬時に理解することができます(これによってモノがどこにあるか探す手間が短縮されます)。

 著者は「いわゆる天才を伸ばすことには興味がない」と述べています。そして行動科学とは「いつ・誰が・どこで」やっても同じような効果が得られる仕組みであり、本人のやる気や能力といったものは関係ないと力強く主張します。

 行動科学という響きに冷たい印象を持つ人もいるかもしれませんが、実は人間の力を信頼したヒューマニスティックな学問と言ってもいいかもしれません。

『短期間で組織が変わる行動科学マネジメント』に比べると少し内容が薄いという欠点はありますが、その分著者自身の具体例なども豊富なため活用しやすく、石田淳ファン(私)にはたまらない本となっています。(文:山崎Y)

超! 自分マネジメント整理術 行動科学で3倍の成果を上げる方法
石田 淳
インデックス・コミュニケーションズ
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posted by さいころ at 11:42| Comment(0) | TrackBack(0) |

『予想どおりに不合理』

予想どおりに不合理[増補版]
ダン アリエリー Dan Ariely
早川書房
売り上げランキング: 3464


行動経済学者として有名なダン・アリエリーの本です。行動経済学というと、何やら経済学っぽいですが、ほぼ社会心理学の本と思ってもらっていいです。

ヒレカツ定食 900円
トンカツ定食 750円
チキンカツ定食 650円
とあると、真ん中のトンカツ定食が一番売れるというのは有名な話です。

一方、中古車屋さんで、

走行距離の多いA社の車
走行距離の普通のA社の車
走行距離の普通のB社の車

とあると、比較しやすいため走行距離の普通のA社の車が選ばれます。この本ではこのような事例がいろいろと書かれています。


例えば、アンカリングの実験として、学生に様々な商品を買ってもいいと思う値段を紙に書いて入札をしてもらいますが、一番上に学生番号の下2桁を書いてもらいます。すると、その学生番号の数字にひっぱられて入札金額が変わってしまいます。コードレストラックボールの平均入札金額は、学生番号の下2桁が00から19の人が8.6ドルなのに対して、学生番号の下2桁が80から99の人では26.2ドルと、約3倍になってしまいました。


また、保有効果の実験として、大学で稀少なバスケットボールの試合のチケットが当選した人に対して「チケットをいくらなら売りますか?」と質問して、外れた人に対して「チケットをいくらなら買いますか?」と質問をすると、この回答の値段は大きくことなります。

売る側は平均2400ドル、買う側は平均175ドルと10倍以上の差になっています。これはチケットに当選した人は、保有効果が働いてチケットにより高い価値を見出すからです。この実験の場合は通常の商品やチケットのように参考になる価格がないというもポイントになると思います。


このように様々な実験を行って、その結果どうなったのかが書かれているわけですが。それぞれが、人間は合理的な生き物である、という直感に反する結果になっています。もちろん、これらの合理的でない部分を認識しておくことで、間違った判断をする罠にかかりにくくなるとは思います。

値段もほど良い値段ですし、意外とページ数はありますが面白い実験がたくさん載っているのであっという間に読んでしまう本だと思います。


(文: SY)
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2011年07月01日

ハイ・フライヤー

先輩に相談するビジネスウーマン[754955] - 写真素材
(c) YNSStock Photos PIXTA



”生まれか育ちか”(nature or nurture)というのは、心理学や哲学などで昔からある対立です。先日読んだビジネス書に、この”生まれか育ちか”の話が出てきて、なかなか面白かったのでご紹介します。

”生まれか育ちか”を企業において考えてみると、社員の能力は”才能か教育か”ということになります。今回ご紹介する”ハイ・フライヤー”はまさにそれを主題にしたものです。”才能か教育か”と言われたら、ほとんどの人が”教育”と答えるんじゃないか、と思いますが、実際には多くの企業ではそのような制度になっていません。

この本では”正しい資質”(原文ではライトスタッフ、この本では”何かいいもの”と訳出)という言葉で表現していますが、企業は才能を持っているかどうかの選抜を行っているだけで教育が行われていないということを主張しています。

この本で述べられている”才能”か”教育”かを簡単にまとめると以下の表のようになります。

ハイ・フライヤー.001.jpg

多くの企業では残念ながら”選抜”方式になっていると思いますが、この本では「”教育”に舵を切れ」ということを述べています。

この本は心理学の本でありませんが、ビジネスでの組織について考える時にも、”生まれ”か”育ち”かという二つの対立があるんですね。実は私たちの身近にもこういった、心理学でよくモチーフにされる対立が隠れていそうです。


(文: SY)

ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法
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2011年06月27日

影響力の武器 実践編

タイトルを聞くとは影響力の武器の続編っぽいのですが、原題は"YES! 50 secrets from the Science of Persuation"となっており、著者もチャルディーニというよりもその弟子が書いた本といったものです。ただし、内容は影響力の武器の続編といも言えるものです。

50の章のそれぞれで、「こうやったら、こうなった」、「こうやったら、こうなった」というように、心理学の実験とその結果が紹介されています。つまり、影響力の武器とほとんど同じスタイルをとっています。

例えば返報性の実験として、ウェイターが客にキャンディーを渡すのとと渡さないのでチップの金額がどのくらい違うか?また、ラベリングの実験として、「あなたは投票を通じて政治に参加する、平均より意識の高い市民だ」と伝えることでどの程度投票率が上がるか、といった実験などが載っています。


これらの実験は実験自体もとても面白く、知的好奇心を満たすものですが、さらに加えて営業やマーケティングで使えるテクニック満載とも言えます。

影響力の武器と同様にオススメの一冊です。


(文: SY)

影響力の武器 実践編―「イエス!」を引き出す50の秘訣
N.J.ゴールドスタイン S.J.マーティン R.B.チャルディーニ
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2011年06月24日

ロバート・チャルディーニ『影響力の武器』


心理学の本ですが、ビジネス書としても有名な”影響力の武器”です。今は第2版が出ていますが、残念ながら新しい版はないので古い版を元に書きます。


この本は、認知バイアスの研究などではいまだに参考文献に名前が出てくるその筋の第一人者ロバート・チャルディーニが、返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、稀少性といったキーワードを通して説得について説明しています。

この本はページ数も多く専門的な本に一見見えますが、実際には非常に読みやすい本です。それは返報性などのキーワードがそれぞれ章になっているのですが、これがエピソードの塊だからです。例えば、好意の章にある類似性の説明では、1970年代に行われた「電話をするために10セント貸してと様々な格好で頼んだ場合に相手が応じた割合」といった話が書いてあります。

これらの社会心理学的な実験は有名なものも多く、それぞれがよく考えられた実験です。それぞれのキーワードの説明を理論で説明するのでなく、「こうやったら、こうなった」、「こうやったら、こうなった」という具体的な事例で進んでいくので、どんどん読み進めていけます。


心理学に興味のある方、営業やマーケティングに関わるビジネスパーソンに読んでもらいたい一冊です。決して損はしないと思います。特にさいころニュースを好きなあなた(どのくらいいるんだろう?)は、絶対ハマると思います。


(文: SY)

影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか
ロバート・B・チャルディーニ
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2011年04月26日

シロクマのことだけは考えるな!

最近メディアで活躍している臨床心理士の植木理恵さんの著作です。

「メディアに露出しすぎる心理学者は信用ならない(特にバラエティ番組)」という偏見に毒されている私ですが、植木さんはアカデミックな心理学を学び・研究してきた背景を持つ臨床心理士。
きっと、ほんの少しの心理学の知識と大いなる主観的意見のみで人間の本質とやらを断言しまくる巷の「心理カウンセラー」とは一線を画した本物の心理学を紹介しているに違いない、という期待と願望を込めて読んでみました。

 この本では、特に実験や調査などによってエビデンスが示されている学習心理学や認知心理学の研究結果に基づいて、日常生活で役に立つ心理学の応用例を紹介しています。

 紹介されている心理学の知識も、心理学の教科書に必ずのっているような有名な理論から最近の研究まで網羅しながらも、膨大な心理学の知識をまとめあげ、かつ明日からすぐにでも使えるノウハウに落とし込んでいます。

 たとえば、スティンザー効果。

 スティンザー効果とは、アメリカの心理学者スティンザーが提唱した現象で、彼は会議の成否と座る場所の関係を示しました。

 スティンザーの研究で明らかになったのは以下の2点。
1.向かい合った人どうしは、相手の発言に反論しやすい
2.隣に座った人どうしは、同調しやすい

この実験結果から、著者は会議で自分の意見を通したいときの場所取りに関してこんなふうにアドバイスします。

1.真っ向勝負になる真正面には、同じ意見の「味方」を配置
2.意見の異なる相手は、その隣に座って同調ポジション


スティンザーの研究結果から過剰な飛躍をすることなく、かつ日常的に取り入れやすいアドバイスではないでしょうか。

このように、この本の中では実際の心理学理論や研究例を紹介した上で、日常生活でどのように活用するか具体的にアドバイスしてくれます。

と、私としては期待以上に面白く読みました。が、いくつかの心理学的知識に間違いがありました。

特に気になったのが、
1.認知心理学のエリスのABC理論が発端であると述べていますが、エリスのABC理論は論理療法の基本理論であり、その後の認知行動療法の発展に貢献はしていますが、認知心理学とは無関係。

2.カクテルパーティ効果の具体的実験例として挙げられている研究は、明らかにカクテルパーティー効果で説明できる実験ではない。

細かいことを言えば、ほかにも「その理論をこの現象にあてはめるのは無理があるのでは…」と思うことが何度かあったのですが、一般向け書籍なので多少の飛躍には目をつぶるべきでしょうか。
が、少なくとも上記の2点は、心理学の基本的な知識がある人間であれば、安易に指摘できるレベルの基本的な間違いです。

 もちろん、心理学の領域は広範ですべてに精通することは至難の業ですが、自ら「心理学オタク」と自称するからには、もうちょっと調べてから書いてほしかったな…と、ちょっと悲しい読後感を持ちました。

(文: 山崎Y)

シロクマのことだけは考えるな! 人生が急にオモシロくなる心理術
植木 理恵
マガジンハウス
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2010年03月11日

「短期間で組織が変わる行動科学マネジメント」

 自己啓発書は確かに面白いけれど、読みつつも「なんかうさんくさいな」と思うことが多い。
というのも、それらの書籍の中で示される「やる気アップ!」「作業効率アップ!」のルールやノウハウは、大抵が著者の経験のみから編み出されたいささか主観的なものであり、客観的根拠に欠けたものに思えるからだ。
 最近では、脳科学や心理学などの科学的知見をベースにした自己啓発書も増えているが、これらの本も、一見科学的な装いをしているに過ぎず、「あえて学術用語を使って説明しなくても…」とツッコミたくなるものがほとんどと言っていいだろう。

 『短期間で組織が変わる行動科学』は、そういったいわゆる「なんちゃって学術的自己啓発書」とは異なり、学習理論をしっかりと踏まえて日常生活に応用した信頼できる自己啓発書だ。
短期間で組織が変わる 行動科学マネジメント
石田 淳
ダイヤモンド社
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 目標を達成するための罰・ほうびの使い方や効果的な目標設定の方法など、個々のノウハウも学習理論に基づいているのはもちろん、客観的にデータを取りその効果を評価すること、個人の能力とは無関係に誰もが行動主義的プログラムで行動を変えることができるというアンチ8:2の法則な考え方など、まさに学習理論の根本思想を本書の中でも強調している点はいかにもガチンコの行動主義信奉者っぽくて好感が持てた。

 本の装丁はイマドキのビジネス書っぽい軽めな感じで、著者の石田淳氏もワイドショーやビジネス書でよく見かけるため、本の中身も軽いと思いがちだが、行動科学のベースが濃厚に反映された(しかも分かりやすい!)良書である。
posted by さいころ at 17:38| Comment(2) | TrackBack(0) |

2009年06月10日

スタンレー・ミルグラム『服従の心理』

社会心理学史上、人間の隠された本性を浮き彫りにした衝撃的な研究が2つあります。
 その研究の1つがスタンレー・ミルグラムが行った通称アイヒマン実験です(もう1つはジンバルドーの監獄実験)。

 本書『服従の心理』は、アイヒマン実験についてミルグラム本人が書いたものです。いわゆる専門論文とは異なり、一般向けに書かれたものであるため、実験参加者のインタビューなど具体的にエピソードも盛り込まれており、読み物としても非常に読みやすい1冊です。

 アイヒマン実験とは「人は権威から命令を与えられたとき、どこまで残酷になれるのか?」を実証的に明らかにすることを目的とした実験で、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺の責任者アドルフ・アイヒマンにちなんで名づけられた名称です。
 ミルグラムはこの実験で、一般の人々も権威から命令が与えられると、驚くほど残虐になれることを示唆しました(アイヒマン実験の概要はこちらをご覧ください)。

 自分のことを残酷な人間だと思っている人はそれほど多くはないでしょう。
たとえ権威からの命令であっても、他人に危害を加えるような行為はとてもできない…そう認識している人がほとんどではないでしょうか?
 しかし、そんな私たちが持つ素朴な人間観をミルグラムは実験と言う実証的方法を用いて覆します。
 実は自分が思っているほど、私たちは善良かつ道徳的で独立した人間ではないのかもしれません。

 また、心理学実験として、ミルグラムの行った実験デザインの秀逸さに改めて感心しました。
 シンプルな実験デザインで、これほどビビッドな実験結果を示すところに、ミルグラムの「実験屋」としての才能を感じます。
 実験概要の面白さに比べると、後半のモデル化はイマイチといわざるを得ませんが、もちろん、それによってこの実験の価値が下がるというわけではありません。
 
 人間の本性とは何か?
 それを明らかにするのが心理学の目標の1つですが、それに加えて、一般に広く認められている人間観に挑戦し、改めて人間とは何か?と人に再考を促す研究が私は優れた研究だと考えます。
 近年、いわゆる「常識」を数量的になぞっただけの心理学研究が多い中(そういう研究ももちろん必要ではありますが)、ミルグラムの研究はやはり後世まで語り継がれるだけの価値がある研究だと改めて実感しました。

服従の心理
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posted by さいころ at 19:54| Comment(0) | TrackBack(0) |