
CMというのは、単に「この商品はこんなに良いから買って!」というメッセージを発しているものではありません。
人は、「単純接触効果」というものに縛られています。これは、ある物や人などを何度も見ると、それに好感を持つというものです。全く知らない製品よりもどこかで名前を聞いたことある製品の方が良いものと思います。実際には、明確に覚えていなくともこのような単純接触効果は働きます。
例えば、以前書いた記事では、「タイガーウッズに似た顔の人から商品を買うか」ということを書きました。これは顔を合成して作ったタイガー・ウッズの要素が35%含まれたセールスマンから物を買うかというものでした。この結果は、タイガー・ウッズのスキャンダル前後で、そのセールスマンから物を買いたいかどうかが変わるという面白いものでした。
今回は、ドイツのケルン大学のSascha Topolinskiらが行った、この単純接触効果の邪魔をする研究についてご紹介します。
これは映画の間のCMの時にポップコーンを食べると、単純接触効果がなくなるというものです。そう聞くと、ポップコーンを食べたことで食欲が満たされるので、商品などへの欲求がなくなるから効果がなくなるだけではないのか、と思われるかもしれません。
しかし、Saschaらの実験は、きちんと一週間後にその効果を検証しています。また、ポップコーンを食べる組と角砂糖を食べる組に分けており、カロリーの摂取という点では同様な条件にしています。
この実験は本物の映画館で行われ、映画の合間にはCMが流されました。このCMは本物を使用していますが、外国でやっている親しみのないブランドのものです。ここで消費者は、渡されたポップコーンか角砂糖を食べながらCMを見ました。
そして1週間後に96人の被験者が、研究室に呼ばれ、並べられた商品の好感度を尋ねられます。商品の半分は見たことがないもので、半分は映画の時にCMを見たものです。すると、角砂糖を食べた被験者は、CMで見た商品に良い印象を持っていました。一方で、ポップコーンを食べた被験者には特に広告の効果はなく、CMを見た商品に良い印象を持っていませんでした。
また、同様に1週間後に188人の被験者が、研究室に呼ばれ、今度はお金を渡されて6種類の化粧水のどれを買うか、もしくは6種類のチャリティーのどれに寄付をするかを選びました。今回も同様に半分はCMで見たもの、半分はCMで見ていないものです。
すると、映画のCMの間に角砂糖を食べた人たちは、映画のCMでやっていたブランドをより選びましたが、ポップコーンを食べていた人たちは特にCMの効果を受けませんでした。
つまり、CMをやっている時にはポップコーンやお菓子をもぐもぐしているとその効果から抜け出せるようです。逆に、宣伝をしたい時には、相手に渡すお菓子は時間がかかるものでなく、すぐ食べてしまえるような小さな和菓子などにするといいということですよね。
この記事はケルン大学の"Popcorn in the Cinema: Oral Interference sabotages advertising Effects"を参考に書きました。
写真はFlickrのrpb1001さんのものを使用しました。
(文: やまざきしんじ)