2013年06月13日

確証バイアス なぜ、あなたは考えを変えられないのか?

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人は、自分の世界観を確認する情報を探し、それに合わないものを無視します。

不確実な世の中で、人は正しいことを好みます。この正しいことは、物事を理解しやすくしてくれます。実際に、心理学者によっては、それは基本的な衝動であると考えています。

物事が正しいことを望むために、自分が正しいという確信を得るための証拠を探します。それは、しばしば憂鬱だったり、滑稽な結果になってしまいます。

・無能な人を雇ってしまった人は、その人がちゃんと仕事を期日までにしている印象だけ持っていて、他のメンバーがその無能な人を手伝ってあげていることに気づかない。
・自分のチームが最高だと信じているスポーツのファンは、勝った試合だけを覚えていて、格下のチーム相手の不愉快な負けを全く覚えていない。
・田舎暮らしを好きな人は、新しい仕事のために都市に来ると、交通の不便さや迷惑な隣人などは忘れてしまい、農場の市場や庭木の手入れがどれほど楽しいかを話します。

これらのことは、普通は気づかれることなく自動的に行われます。これは、新しいイメージをするよりも、前からあるジグソーパズルのようなイメージにピースをはめ込む方が簡単なことに少し似ています。こういったことは、自分が正確で、正しく考えていて、首尾一貫しており、自分は物事をちゃんとわきまえているという考えの助けになります。

心理学者は、このことを確証バイアスと呼んでいます。これは、私たちの生活の様々な領域に影響を与えています。いくつか例を挙げてみましょう。

1.セルフイメージ
「おぉ。綺麗ですねぇ。髪の毛に何かしてるんですか?」

誰が褒め言葉を嫌いでしょう?誰もいません。それがたとえ心からのものでなくても、私はその褒め言葉を受けとります。でも、こういうのはどうでしょうか?

「おぉ、あなたは本当にスライムみたいですよね、知ってました?」

侮辱を好きな人はいるでしょうか?たしかに、侮辱は好きではないです。でも、信じようが信じまいが、時々、人は自分で侮辱を探しだそうとするのです。

Swannら1989の研究では、スライムほどでないものの、のろまだったり、鈍かったり、それほど運動が得意ではないといった悪いものでも、自分の自己イメージを確認しようとするのです。


これは自己嫌悪の一種ではありません。この研究では、高い自尊心を持つ人でさえ、自分のネガティブな自己像を確認しようとすることを明らかにしました。

つまり、私たちは、たとえ自己像が悪くなっても、正しくありたいと思っているのです。


2.金融
Parkら,2010の研究では、オンライン株取引投資家が、期待している株に関する情報をどのくらい集めているかを検討しました。


調査では、確証バイアスが大きいことを見つけました。投資家は、ほぼ特定の株についての自分の直感が正しいと確認する情報だけを集めていました。強い確証バイアスを持つ人々は、もっとも過信をしていて、その結果もっとも投資の成果が出ていませんでした。

つまり、私たちは、お金を失っても、正しくありたいと思っているのです。


3.政治
人々は、政治においても、いつも見たいものを見ます。

嫌味の最も分かりやすい例は風刺です。風刺では、しばしば当てこすりをします。テレビタレントのステファン・コルバートがしばしば言うように、論点について自分の考えていることとは反対のことを言うのです。(「ジョーク」と呼ばれてるヤツですね!)

LaMarre,2009の研究によると、コルバートの嫌味に同意しない人は、彼が嫌味を言っているとは思わず、本当にそう思っていると解釈していました。


素晴らしいことに、リベラルも保守も同様に自分が見たいことを見て、自分の観点を確認するのです。

つまり、私たちは、ジョークかどうかよりも、正しくありたいと思っているのです。


それはバイアスのせいだ
何年もの間、確証バイアスは、様々な間違った信念に関して非難されています。ここに少しだけ挙げてみましょう。

・他の国や人種について自分の偏見に合致する情報にだけ気づくため、人は偏見を持っています。
・人は、UFOやケネディ暗殺、占星術やピラミッドや月面着陸の嘘など、様々な奇妙なことを信じています。これも、自分の信念を修正するのでなく、補強する情報だけを見ているからです。
・19世紀初頭、医者は様々な病気を血を抜くことで対応していました。死んだ患者は無視して、よくなった患者を見て、その治療法を判断していました。実際に、多くの軽度の患者は、何もせずともよくなるのです。


バイアスと戦え
確証バイアスと戦う方法は、言うのは簡単ですが、実践するのは難しいものです。

反対の説についてもよく考えて、それをテストしなければいけません。簡単そうに聞こえますが、これは私たちの直感に反しています。そして、自分が間違って考えていたり、間違った情報を持ってると想定することは楽しいことではありません。それには努力が必要です。

自分の政治の信念を変えるような本を読んだり、好きな映画の批判や、どのくらいの人が違った生活を選んでいるのかを受け入れることは、不愉快なことです。

確証バイアスと戦う方法の一つは、もう少しオープンになろうと努力することです。もっと疑いと持つことはできるのでしょうか?私たちは、真実に気づいて、本当にすごい偉業を達成できるのでしょうか?

つまり、自分の考えを変えることを。


この記事はPSYBLOGの"The Confirmation Bias: Why It’s Hard to Change Your Mind"を翻訳したものです。


(翻訳・絵: やまざきしんじ)
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2013年05月14日

イラストにすればいいってもんじゃない

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心理学にしろ経済学にしろ、学問で面白いのは直感に反する事実を知ることです。もちろん研究としては、直感に合うものが直感どおりであることを明らかにするということも大事ですが、直感と違うものを明らかにするほうが遥かに重要だと思います。

オハイオ州立大学のJennifer Kaminskiらの研究は、グラフの教育効果についての研究です。グラフといえば、ヤバい統計学の著者が作っているJunk Chartsというホームページはダメなグラフがたくさん載っています。




Kaminskiらの研究は6歳から8歳の小学生を対象としたものです。この研究では、靴や花のような画像を使った棒グラフと、単なるベタ塗りの棒グラフのどちらが教育効果が高いかを確認しました。

この研究によると、絵を使った棒グラフは視覚的なアピールがあり興味を持たれますが、表面への興味が先行するためか、教育的な効果は低くなってしまいます。つまり、棒グラフはシンプルな方がいいということですね。


ちなみに16人の幼稚園と小学校の先生に、どちらのグラフが有効と思うかと確認したところ、全員が絵を使ったグラフの方が教育的にも有効であると考えていました。これは私たちの直感にも合うのではないでしょうか?

しかし、実際にはシンプルなグラフの方がいいのです。実はこの結果は様々なものに言えそうです。ビジネス業界では、ビジュアルなんとかといわれる様々な技法が営業・宣伝されていますが、これらについても「直感的にいいと思う」と「本当に有効」の間にはギャップがあるかもしれませんね。

この記事は、以下を参考に書きました。
Ohio State University. "Look! Something shiny! How some textbook visuals can hurt learning." ScienceDaily, 8 May 2013. Web. 14 May 2013.

(文・絵: やまざきしんじ)
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2013年04月04日

手の魔法

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アイオワ大学の Susan Cookとミシガン州立大学のKimberly Fennらは184人の小学校2〜4年生を対象とした教育におけるジェスチャーの役割を研究しました。

この実験では、教師が口頭でだけ問題と伝えるよりも、手振りをつけて問題を伝えることで、算数の問題がより解けることが分かりました。

例えば

4+5+7 = ?? +7

という問題で、??に入る数は何かという問題です。この問題を説明する時に、口だけで説明するよりも教師が手を使うことが大事なのです。


この研究は別の似たような研究があります。2009年にシカゴ大学のSusan Goldin-Meadowと当時シカゴ大学にいたSusan Cookらの行ったものです。先ほどと同じような問題(例えば9+2+3 = ?? +3の??に入る数を答えさせる)を解く方法を、計算の時に使うV字のような手振りを子供に教えて解かせるというものです。この実験では上手くジェスチャーを覚えた子供は、ジェスチャーを覚えていない子よりも約50%も正解率が上がったという結果になりました。


これらの研究は計算においても、ジェスチャーが大事ということを示しています。教師がジェスチャーを使ったり、生徒がジェスチャーを使ったり、どちらにしろ正しくジェスチャーを使うことで、より正しく計算ができるようですね。

この記事はミシガン大学の"TEACHERS’ GESTURES BOOST MATH LEARNING"と以下の論文を参考にしました。
Susan Goldin-Meadowら, 2009, "Gesturing Gives Children New
Ideas About Math", Association for Psychological Science Volume 20−Number 3 pp.267-pp.272

(文・絵: やまざきしんじ)

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2013年01月10日

退屈なルーチンワークの日には何をするべきか

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仕事で退屈するというのはダメそうな感じがします。厳しい納期や、営業の締め日の後にダラダラ過ごす一日も格別かもしれませんが、それは単なる休息ですよね。

でも、そんな退屈な一日を上手く使うヒミツがあるようです。

イギリスのセントラルランカシャー大学のSandi Mannらは、80人を対象に新しいペアのプラスチックのコップを考えてもらうという創造性の実験をしました。

この時、半分の40人には、最初に電話帳の電話番号を書き出すという作業を15分してもらって、それからコップを考えてもらいました。別の40人は、いきなりコップを考えてもらいました。すると、最初に単調な作業をした人たちの方がより創造的な発想をすることができました。


次に60人を対象に別の実験をしました、今度は30人は電話帳の電話番号を書きだしてもらって、別の30人には電話帳の電話番号をただ読んでもらいました。すると、今度は単に電話番号を読んだだけの人の方がより創造的でした。

つまり、電話番号を読んだだけの人>電話番号を書きだした人>いきなりコップについて考える人、という順で創造的だったということですね。


退屈な作業の日には、合間に創造的なタスクを入れる。創造性を必要とするような作業の前には、やらなきゃいけなかったけど放置してた面倒な領収書の整理をちょっとやる、なんてことがいいかもしれませんね。


この記事はThe British Psychological Societyの"Boredom at work can make us more creative"を参考に書きました。


(文・絵: やまざきしんじ)
posted by さいころ at 09:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想法・問題解決

2012年09月12日

だまし絵で、創造性チェック!

Duck-Rabbit.jpg

あなたはクリエイティブですか?まず、簡単なテストをしてみましょう。

この有名なだまし絵は、アヒルとウサギの、2つに見えます。どちらが最初に見えたでしょうか?また片方に見えてから、もう一方の見方ができましたか?

多くの人は、最初にアヒルを見て、それから反対側のウサギを見ることができます。
しかし、ここでのポイントは、どのくらい簡単にアヒルとウサギを切り替えて見ることができるかです。切り替えに手間がかかりますか?それとも切り替えが自由自在でしょうか?

Wisemanら,2011の研究では、アヒルとウサギの間で切り替えが出来る力が、クリエイティビティ(創造性)と関係があることを示しました。

被験者は、2分間で日用品の変わった使い方をリストアップするというクリエイティビティのテストを行いました。
例えば、椅子には”座る”という使い方がありますが、これは普通の使い方です。”椅子の上に立つ”というのは少しだけ新しいですが、”椅子を使って要塞を作る”、”寒さをしのぐために燃やす”、”酒場で喧嘩する時に武器にする”といった使い方はより変わった使い方です。

よりたくさんの時間があればよりたくさん思いつきますし、よりクリエイティブならよりたくさん思いつきます(面白いから、やってみましょう)

この研究では、参加者はどのくらいだまし絵のアヒルとウサギの切り替えが簡単かを尋ねられました。すると、より容易にアヒルとウサギを切り替えることができる被験者は、平均して日用品の5つの変わった用途をあげることができました。一方で、アヒルとウサギの切り替えができない人は、2つ以下の用途しか考えることができませんでした。

このことは、だまし絵の切り替えが、クリエイティブかどうかのヒントになることを示しています。アヒルとウサギの切り替えの瞬間はクリエイティブなひらめきに似たもので、別の方法で世界を見ることに気づく瞬間なのです。

クリエイティブな人には、既にあるモノの新しい使い方を見つけたり、2つの無関係なアイデアやモノを上手くつなげる才能があります。

もしギルフォードの創造性テストをしたいなら、レンガや紙ばさみのような日用品について、2分間で変わった使い方をできるだけたくさん考えることを覚えておきましょう。そして、このテストの得点が、以下のようになっていることを知っておきましょう。

違った用途でも似たようなものは1点と見なされます。用途が同じ機能のカテゴリーに入ると思われるなら、1つのものと見なされます。例えば、紙ばさみを”指輪”と”イヤリング”にみなすというのは、ともに”宝石”というカテゴリなので、1点にしかなりません。

思ったほど、簡単ではないですよ。

この記事はPSYBLOGの"Duck/Rabbit Illusion Provides a Simple Test of Creativity"を翻訳したものです。
※太字は訳者によります。


(翻訳: やまざきしんじ)

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2012年09月05日

”いつも”から逃れる2つの発想テクニック

機能固着.jpg

創造性を高めるための方法として、以前、機能を無視して、材質、形、大きさなどに着目するという”質問ノートと創造的な解決法”という記事を書きました。


物の機能をその代表的な機能に限定して考えてしまうという機能的固着(functional fixedness)から抜ける2つのテクニックについて簡単に紹介しましょう。


まず、一つめのテクニックとしては、抽象的な名前を使うというものです。例えば、コップといってしまうと機能のイメージがあるので、円柱と名付けます。ドライバーという名前でなく、金属の棒と呼ぶといったテクニックです。具体的な機能のイメージを伴う名前でなく、抽象的な名前を使うことで、物と機能を切り離します。


二つめのテクニックとしては、物の置き方を工夫するというものです。もし、箸と茶碗があったら、箸を二本一組にして茶碗の近くにおかないようにします。茶碗の近くに棒が2本あると箸という機能的固着が起こりやすくなるので、茶碗から離して、それぞれの2つの棒を離して置きます。これは、物の配置が機能のイメージを伴ってしまことがあるので、配置と機能を切り離すというテクニックです。


機能的固着は、いつもの物に対して、いつもの使い方(機能)しか思いつきにくくなるというものです。いつもの名前、いつもの置き方とは違うのが創造性のポイントなんでしょうね。


ちなみに、1つめのテクニックに関しては、lifehackerさんで”ひらめきや新しいアイデアを生み出すには「呼び名」を変えると効果的”という記事が書かれています。


この記事はAssociation for Psychological Scienceの”Stumped by a Problem? This Technique Unsticks You”を参考に書きました。

また、以下の論文も参考にしました。
Tim Germanら, 2005, "Functional Fixedness in a Technologically Sparse Culture", Psychological Science January 2005 vol. 16 no. 1 1-5


(文・絵: やまざきしんじ)
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2012年08月22日

拒絶が創造性を生む

社会的拒絶と創造性.jpg

よく組織が創造性を阻むということが言われています。たしかに、会社などの組織(縦型組織?官僚型組織?)では、下から上に意見があがっていくうちに創造的な部分が潰されていくのではないでしょうか。

また、日本は和を尊ぶ文化なので、創造的なものを阻むということも言われています。それでは、私たちは創造的ではいられないのでしょうか?


ジョン・ホプキンス大学のSharon Kimらは、創造性と社会的な拒絶の関係を研究しました。この研究結果は、創造性を信じてる人たちを少しだけ励ましてくれるものです。

この研究によると、社会的な拒絶が行われると、他人に依存的な人は創造性を減らしてしまいますが、自分は独立していると考えている人は創造性を増します。言い換えると、変わった人、そしてそのことを自覚しているような人は、他人から拒絶されることで創造性を増すのです。

このことは、自分がグループの一員として上手くやっているメンバーは他人からの承認を求めていますが、自分は他のメンバーとは違うと感じている人にとっては他人からの拒絶こそが「あなたは独創的だ」という承認になっていると考えることができます。


なお、この研究では、自分は他人と違うとみなしているような人に、単に「あなたはみんなから拒絶されているよ」と伝えるだけで創造的な問題解決がより出来るようになりました。非常に単純な実験ですが、この結果だけでも社会的な拒絶の意味を考えるヒントになるでしょう。

もちろん、このことは他人を拒絶することを認めるものではありませんし、創造的な会社であるために拒絶をすることを勧めるものでもありません。しかし、創造的な人間というのは、他人と違うという独立心さえあれば、拒絶に負けないでもっと創造的になれるということです。


この記事は以下を参考に書きました。
Sharon Kimら, 2012, "Outside Advantage: Can Social Rejection Fuel Creative Thought?", Journal of Experimental Psychology: General, 2012; DOI: 10.1037/a0029728

(文・絵: やまざきしんじ)
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2012年07月20日

ニュルニュルしてクリエイティブに!

ニュルニュルがアイデアだす.jpg

クリエイティブになるための方法の研究はいくつか行われています。”クリエイティビティは静寂から生まれない?”という記事では、静かな環境ではクリエイティブになれないということを書きました。


タフツ大学のMichael Slepianらは、すぐに創造性を高めることが出来る簡単な方法について研究しました

この研究では、最初に被験者は「手と目の調和の実験」と言われて、カクカクの線か、なめらかな曲線のどちらかを書かされます。その後で、様々な問題を解くのですが、なめらかな曲線を書いてから問題に取り組んだ被験者は問題解決がより出来るようになるのです!!

曲線と直線.jpg
(下の論文より引用)

非常に簡単な方法ですよね!あ、ちなみに概ね問題解決がよりできますが、最大でも問題の解決数が20%程度増えるだけですので、会議の前にニュルニュルっと書いただけでなんでも解決できるってほど強力なものではありません。


でも、お気軽にできるので、会議で行き詰まった時にはノートにニュルニュルしてみてください


この記事は以下を参考に書きました。
Michael Slepianら, 2012, "Fluid Movement and Creativity", Journal of Experimental Psychology: General Feb 20, 2012


(文・絵: やまざきしんじ)
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2012年06月09日

社内でのより良いアイデアの出し方

アイデアとオーナーシップ.jpg

社内の会議でアイデアを出しあう場合、最上位の役職者のアイデアか、もしくはキーマンの人が提案してそこに決まっていくという形ではないでしょうか?

実際に、本当にクリエイティブな打ち合わせならば、そんな結果にならないはずです。これは、上位の役職者やキーマンの考え方が原因ではないでしょうか?


ワシントン大学のMarkus Baerらの研究は、アイデアとそのオーナーシップ(所有権)に関するものです。この研究によると、人は自分のアイデアにオーナーシップを強く感じると、そのアイデアに固執するというものです。そのアイデア自体を変更するような提案を聞かなくなり、アイデアへの足し算のようなものは喜んで聞くようになります。逆にアイデアへのオーナーシップが弱い場合は、アイデアへの足し算よりも、アイデアの変更を喜んで行います。つまり、人はアイデアにこだわってしまうということですね。


この研究は、アイデアに対してオーナーシップを強く持つことで、盲目になってしまうことを示しています。

思い返してみると、私も会議の席などで自分のアイデアがいいという前提に立ってしまって、オープンに様々なアイデアを検討するということが出来ていなかったと思います。皆さんも、会議の際に特定のアイデアに強いオーナーシップを抱かないように注意してみてはいかがでしょうか?アイデアから手を離す、これがポイントじゃないでしょうか。アイデアの所有権を手放すことで、もっと創造的な解決が見いだせるかもしれません。

できるだけで、手放す、手放す、と意識してみてください。


この記事は以下を参考に書きました。
Washington University in St. Louis. "A strong bond to an idea makes collaboration more challenging." ScienceDaily, 7 Jun. 2012. Web. 8 Jun. 2012.

(文・絵: やまざきしんじ)

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2012年03月15日

難しく感じるともっと難しくなる

ゴルフのホールの大きさ.001.jpg

私は趣味がビリヤードなんですが、ポケットビリヤード(実は穴のないビリヤードもあるんですが、ちゃんと穴のある方)をしていると少し穴の小さめなテーブルだと途端に入らなくなることがあります。ビリヤード用語では、渋い台と言われるものです。

普通のテーブルだと、コーナーポケットの大きさはおそらくボール2.1個分くらいだと思いますが、これが0.1個分くらい小さくなるだけで途端に難易度がアップします。ボールの大きさが1個分あるので、ズレていい許容量がボール1.1個からボール1.0個へと10%減っただけですが、難易度は10%よりも上がっている印象です。

それはなぜでしょうか?


Witt Linkenaugerらの研究は非常にシンプルかつ面白いものです。Linkenaugerらの実験はゴルフのパターでの実験です。この実験では、それぞれ10回パターでショットをしますが、一方の条件では、上の絵のようにゴルフのカップ(穴)の周りにプロジェクタで5個の大きい円を映し、もう一方ではプロジェクタで11個の小さい円を映します。

上の図を見て分かるように、5個の大きな円を映すとカップは小さく見えて、11個の小さな円を周りに映すとカップは大きく見えます。このようにカップが小さく見える場合と、大きく見える場合でショットの成功率がどう変わるかを実験しました。

その結果、ショットの成功率は11個の小さな円を周りに映した大きく見えるカップの方が10%も成功率が高かったのです。この実験はカップの大きさは変わらなくても、プレイヤーが難易度をどのように感じているかで実際の成功率が大きく変わることを示しています。


つまり、ビリヤードでは渋い台でプレイをすると、実際に難しいだけでなく、難しいと感じることがさらに難易度を上げていると考えられるのです。

これは同様のことが、ビリヤードやゴルフだけでなく、様々なスポーツで起こっていると考えられます。難しいものは実際に難しいだけでなくプレイヤーの知覚がさらに難しくして、簡単なものは実際に簡単なだけでなくプレイヤーの知覚がさらに簡単にしているようですね。


この記事は以下を参考に書きました。
Association for Psychological Science. "Get me out of this slump: Visual illusions improve sports performance." ScienceDaily, 13 Mar. 2012. Web. 15 Mar. 2012.

論文情報は以下になります。
Witt, J. K., Linkenauger, S. A., & Proffitt, D. R. Get me out of this slump! Visual illusions influence sports performance. Psychological Science, 2012 (in press)

(文・図: やまざきしんじ)
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2012年03月02日

ストレス下では、いいことに注目しちゃう

ストレス下ではポジティブ.jpg

スポーツなどを見ていると分かるように、少しのストレスは高いパフォーマンスを発揮させるかもしれませんが、高いストレスは人の判断を狂わせます。

それでは、ストレス下では、人はどのように判断をする傾向が有るのでしょうか?南カリフォルニア大学のMara MatherとNichole Lighthallがこの傾向を調査しました。

ここから意外なことが分かりました。ストレスがかかった状況では、人は普段よりも失敗に意識すると思われるのですが、意外にもストレスがかかった状況では人は成功により集中するのです。なんとなく、ストレスがかかると失敗に目を向けてしまうんじゃないか、と思いますよね?

例えば、数分間氷水の中に手を突っ込んだり、「スピーチをしてください」といったストレス下では、人は良い情報に眼を向けて悪い情報を頭から消そうとします。つまり、人はストレスがかかると、良いことだけを見て悪いことを意識しないという傾向があるのです。そして、良い情報に集中する結果、悪い点を改善したり修正したりといったことが難しくなってしまいます。


また、ストレス下では、男女のリスク傾向の違いも大きくなります。男性の場合はストレスがあるとよりリスクを取る傾向があり、女性の場合はストレスがあるとリスクを取らず保守的になる傾向があります。”戦うか逃げるか”(fight or flight)と言いますが、ストレスがあると、男性はより戦って(fight)、女性はより逃げる(flight)という傾向があるのです。


この記事はAssociation for Psychological Scienceの"Stress Changes How People Make Decisions"を参考に書きました。

(文・絵: やまざきしんじ)
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2012年02月15日

質問ノートと創造的な解決法

機能的固着.jpg

ここ数日、クレイトン・クリステンセン他著の「イノベーションのDNA」という本を読んでいます。大きな本屋さんのビジネス書コーナーには平積みされているので見たことある方もいるかもしれませんね。クリステンセンは私の最も好きなビジネス書作家の一人で、この本もやっぱり面白いです。

この本はサブタイトルが「破壊的イノベータの5つのスキル」となっていて、破壊的イノベーションというこれまでの延長にないイノベーションを発揮する方法について語ったものです。まだ読みかけですが、ブレインストーミングならぬ”質問ストーミング”や”質問ノート”といった話は面白く、私もさっそく普段の質問を書き残しておく”質問ノート”を作りました。


創造的に問題を解決するためには、問題を認識しなければならないのも当然ですが、それとほぼ同時に解決しなければなりません。もちろん、破壊的イノベーションについては、質問の方が大きなウェイトを占めますが、その後の解決も大事です。


この解決を妨げるものはいくつかありますが、機能的固着(functional fixedness)はこの解決を妨げるものの1つです。これは人は物の機能をその特徴的な(代表的な)機能に限定して考えてしまうというものです。

電源プラグは、電気を流すためにコンセントに差し込んで、はずれなくして、人が金属に触らないようにするためのものと普通は考えますが、大きめのドライバーとして使うことができます。ティッシュペーパーの箱は、中のティッシュを使い終わったらただのゴミですが、テレビのリモコン入れとして活用したり小さな赤ちゃんがおもちゃのブロックとして使うことができます。

また、発明の例としては、セーターについたイガイガを見てゴミと見る(機能的固着)かファスナーの種と見るか、またすぐに剥がれてしまうノリを出来損ないと見る(機能的固着)か本のしおりに使ってポストイットの種にするかどうかというのもあります。


マサチューセッツ大学アマースト校のAnthony McCaffreは機能的固着を避けて、創造的になれるためのテクニックを教えています。これはモノについて機能を無視して、材質、形、大きさなどについて記述のリストを作ります。このテクニックを覚えた人は、創造性のテストの課題で、テクニックを覚えていない人よりも67.4%多く課題を解くことができました。これで、マクガイバー並に創造的になれるかは分かりませんが、システマチックな手法でも創造性を鍛えられるというのが面白いですね。


こうやって”質問ノート”や”質問ストーミング”で問題をみつけ、機能的固着を避けて創造的に考えることで、もっと素敵なアイデアや商品が世の中に生まれると嬉しいですね。


この記事は以下を参考に書きました。
University of Massachusetts Amherst. "Creativity: Anyone can learn to be more inventive, expert says." ScienceDaily, 9 Feb. 2012. Web. 15 Feb. 2012.


(文・絵: やまざきしんじ)

世界的に有名なアイデアの企業IDEOが、日常に溢れている*非*機能的固着の写真集的なアイデア集。何故か翻訳が森博嗣というビッグネーム。困った時にぼんやり眺める本です。
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クリステンセンはやっぱり面白いです。ビジネスパーソンにはオススメの一冊。
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2012年01月26日

本当に箱から脱出する思考法

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よく考える際に「箱から出て考える」と言います。以前、”箱と自分から脱出するクリエイティブ思考”という記事では、主体を自分でなく他人として考えるとよりクリエイティブになるということを紹介しました。


シンガポールマネージメント大学のAngela Leungらの実験は、創造性へのメタファーの影響についてのものです。海外では”out of the box"(箱の外)で考えると言います。そこで実際に1.5m四方のダンボールの箱を用意して、箱の中と箱の外でどちらが創造的になるかを調べたました。この結果、箱の外にいる人の方が創造的なアイデアを生みました。

また、英語の諺で”putting two and two together.” という言葉があります。これは「あれこれまとめて結論をだす」という意味です。このメタファーを使うために、人に両手に紅茶のソーサーとティーカップをもたせるとより創造的なアイデアを生みました。

人は実際のメタファーの影響を受けているというのは心理学の実験などでもよくみかけることです。人はクリエイティブだと思っているロゴなどを見るとクリエイティブなるといった実験もあります。アーティストの芸術品なども効果があるでしょう。

また、別の方法として”もっとクリエイティブに! 7つのちょっと変わった心理学テクニック”にはいくつかのクリエイティブになる方法を書きました。

アップルの3ヶ月の利益が1兆を超えたそうですが、もっとクリエイティブな商品が日本でもバンバン発表されてワクワクしたいです。


この記事はAssociation for Psychological Scienceの"To “Think Outside the Box”, Think Outside the Box"を参考に書きました。


(文・絵: SY)

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2012年01月11日

「それは知ってる」症候群

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(c) パームツリーストック写真 PIXTA


今日のさいころニュースは心理学的な実験に基づかないものをご紹介します。MAD(Male Answer Disorder 男性解答障害)と名付けられた概念、つまり「それは知ってる」症候群についてです。

これはFREAKONOMICS(ヤバい経済学)として知られるブログの”Is Not Saying “I Don’t Know” a Guy Thing?”(「私は知らない」と言わないのは、男性のもの?)という記事で、この「それは知ってる」症候群について書いています。


男性には「私は知らない」と言わない傾向がある、もしくは本当に「私は知らない」と言わな人がいるんじゃないでしょうか?

私も多分にその傾向がありますが、皆さんの周りにも「あ、それは〜」と何でも知っている(風の)人がいるんじゃないでしょうか??

知識がある人が聞いているとツッコミどころ満載でも、大人の世界では「それは違うよ」などというのは無礼なことと思われているので、訂正をしないといったことがしばしばあります。


ソクラテスの言う”無知の知”というのはとても大事なことだと分かっていても、日常生活では思わず知ってるフリをしたくなって新しいことを知る機会を逃してしまいます。そもそも知らないことは知らないとキチンと答えられるようになりたいです。

(文: SY)

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2012年01月10日

不幸なお話が、改善のポイント

虫眼鏡 ルーペ 棒グラフ  - 写真素材
(c) Graph-S写真素材 PIXTA


世の中ではポジティブになることが良いという風潮があります。取引先は当たり前ですが、会社や友人関係でも相手には良いことしか言ってはいけないという空気が支配しています。

それでは、ポジティブなことに集中することと、ネガティブなことに集中することはどちらがいいのでしょうか??ポジティブなことに集中するのは、自尊心をあげてストレスを低下するにはいいかもしれません。

しかし、物事をより良くするためには、ネガティブなことに集中しなければいけません。物事を改善するためには、どこが悪いのかに気づく必要があるためです。


オハイオ州立大学の India Johnsonの研究では、被験者が幸せなお話か不幸な話をまず読みます。その後に、大学の外部向けのレビューから大学の強みと弱みのレポートをどう読むか調べました。すると、幸せな話を読んだ被験者は大学の強みを読みたがり、不幸な話を読んだ被験者は大学の弱みを読みたがりました。

不幸なお話が、自分の組織のネガティブな部分に注目させて、組織のあらを探すことが出来るのです。会社などでは、無駄な仕組みやおかしな仕組みがたくさんあります。こういったものの弱みに集中することはとてもいいことじゃないでしょうか。


人は自分自身だけでなく自分の所属している組織についても、正しいものと思い込んでしまいがちです。改善のためには、少しでもその弱みに集中できるようにすることが大事だと思います。


この記事はAssociation for psychological scienceの"The First Step to Change: Focusing On the Negative"を参考に書きました。


(文: SY)


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2011年12月25日

なぜ名前は覚えられないのか?

印鑑 - 写真素材
(c) mounelストックフォト PIXTA


名前は、人の仕事や趣味や住んでいる街よりも覚えにくいものです。

「人の名前を覚えるのが苦手」といえば誰もが賛成してくれるでしょう。誰もが人の名前を覚えにくいという経験をしています。研究者は、名前を覚えるための上手い方法などをいくつか述べています。Griffin,2010の研究では、名前は様々な単語の中で最も覚えにくいと述べています。

CohenとFaulkner,1986の研究では、名前とプロフィールを被験者に見せて、何を覚えているかをテストしました。その結果、被験者は以下のような割合で思い出すことができました。

1.仕事 69%
2.趣味 68%
3.住んでいる街 62%
4.名前 31%
5.姓 30%

人が何をしているか、趣味は何か、どこから来たかよりも、名前の方が覚えにくいという結果になりました。これは驚くような結果ではないかもしれません。ほとんどの人が、仕事などより名前を思い出せないという経験をしているでしょう。

しかし、これはなぜでしょうか?

これには、様々な理論があります。1つの理論では、同じ名前の人がいるということです。ジョン・スミスのように、ありふれた名前と姓は覚えるのが難しいです。他の人の名前と同じなので、思い出すのが妨げられるためです。

しかし、JamesとFogler,2007の研究では、直感に反して、ありふれた名前は変わった名前よりも覚えやすいと述べています。一方で、Griffin,2010の研究では、変わった名前の方が覚えやすいと述べています。つまり、まだ明確ではないのです。


名前の中に何がある?

名前についてもっともよくある説明は、名前には意味がない、ということです。

名前は、ほとんどの人にとって、外見や性格などの手がかりにはなりません。例外として、おおよその年齢や社会的な階級や、親がセレブかどうかは分かるかもしれません(オフスプリングの子供は 'Moon Unit', 'Tu Morrow'といったキラキラネームです)

例えば、私が”ピンクパンサー”という名前で、ピンクの豹の姿をしていれば、すぐに覚えることができるでしょう。(Foglerら,2011)

意味がポイントになります。名前を覚えるのは難しいのは、名前と意味のつながりが弱いからです。James,2004によると、ある人が陶器職人(potter)であると覚えるのは、ポッター(Potter)という姓であると覚えるよりも簡単です。私たちは、名前に本来は意味があっても、名前は無意味と考えます。

たぶん、名前が覚えにくいのは人の名前とその人が何をしているかやその人の特徴などが関係がないためです。”Dave”というのは単に、ニュースの視聴者が犯人を他の人と区別するためのものです。実際に会うと、本当はミランダ・ブレインという名前の神経外科医であると分かってびっくりするかもしれません。

名前を覚える一般的に行われるテクニックの1つは、名前と何かを連想するというものです。なぜニックネームが名前よりも覚えやすいかというのは、ニックネームは何かの特徴や出来事で決めたものだからです。


そして、名前を忘れるからといっても、心配しないでください。それは普通のことです。他人に優しくして、あなたの名前が何かを思い出させてあげてください。そして。誰かがあなたの名前を誰かが忘れたとしても、このロミオとジュリエットの言葉を思い出してください。

名前にいったい何があるというの?バラの花は、他の名前で呼んでも、同じように芳しい香りがするわ。


この記事はPSYBLOGの"Why People’s Names Are So Hard to Remember"を翻訳したものです。


(翻訳: SY)
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2011年12月13日

昔のサッカー選手はすごかった?クライフとメッシどっちが上?

サッカー 球技 スポーツ  - 写真素材
(c) MakiEniストック写真 PIXTA


過去最高のサッカー選手は誰でしょうか?私は30代後半ですが、FCバルセロナのリオネル・メッシと答えます。今週のクラブ・ワールドカップも楽しみです。また、メッシ以外だと2003-2004シーズンのロナウジーニョと1993-1994のロマーリオも捨てがたいところですが..

それでは、過去最高の選手は誰なんでしょうか?ペレ?ベッケンバウワー?クライフ?マラドーナ?ファン・バステン?

デューク大学のSteve Janssenらはオンラインで、オンラインで16歳から80歳の619人に、過去の190人の偉大なサッカー選手から5人を選んでもらうという実験を行いました。ちなみにこのサイトはオランダのアムステルダム大学のサイトの中に作られました。

その結果は、獲得した票の順にクライフ、ペレ、マラドーナ、ファン・バステン、ジダン、ベルカンプ、ベッケンバウワー、エウゼビオ、ロマーリオ、メッシといった順でした。オランダでの調査なので、クライフ、ファン・バステン、ベルカンプといったオランダ勢や、オランダリーグでも活躍したロマーリオが含まれています。ちなみに1位のクライフは86.1%の得票、2位のペレは55.6%の得票で、10位のメッシは7.9%の得票でした。

ちなみにこの研究のポイントは、誰が票を獲得したかでなくどの選手にどの年代の人が票を入れたかです。それぞれの選手の活躍の最盛期の時期と、投票者の当時の年齢を比べると、10代後半から20代前半に最盛期を迎えていた選手に票を入れることが多く、自分が17歳の頃に最盛期を迎えていた選手に最も多く票を入れていました。5票持っているので、多くの人はクライフに票を入れましたが、それ以外の票を自分の世代に応じて、プラティニに入れたり、マラドーナとファン・バステンに入れたり、ロマーリオとジダンに入れたりしていたということです。

このことはレミニセンスバンプ(Reminiscence Bump)と言われるもので、人は10代後半から30代の頃のことを思い出しやすいというものです。サッカーを見ることにおいては、サッカーの選手や戦術を十分に理解しはじめてくるのが高校生位からと考えると、理屈とマッチします。


レミニセンスバンプによって、自分の10代後半くらいに活躍したものに対して、「**という歌手は良かった」、「**という野球選手の最盛期はすごかった」、「**という映画監督は最高」といったことを思いがちです。

このような効果があるので、青春時代のアレコレについては実質以上に過大評価をしてしまうようです。若い子に”昔語り”をする時には少し控えめがちょうどいいと心がけましょう。

この記事はThe British Psychological Societyの"What your choice of best ever footballer says about human memory"を参考に書きました。

元の論文情報はこちら。
Janssen, S., Rubin, D., and Conway, M. (2011). The reminiscence bump in the temporal distribution of the best football players of all time: Pelé, Cruijff or Maradona? The Quarterly Journal of Experimental Psychology, 1-14 DOI: 10.1080/17470218.2011.606372


(文: SY)
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2011年12月07日

女性は地図を読めないという神話

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女性は空間認識が苦手と言われます。カーナビの設定で、上を北にする(ノースアップ)か、前方を上にする(ヘッドアップ)かといった設定で、女性の方がよりヘッドアップに設定するというのが経験的にあります。また、紙の地図をグルグル回してみたりといったことをする人もいます。あ、iPadの地図をグルグル回してる男性もいますが...これは、頭の中で地図を回転させて見る能力が男女で違うためと考えられています。

イタリアのボッコーニ大学のZachary Estesとジョージア大学のSydney Felkerの研究によると、地図を読む時に女性が自信をもって行うと、このような空間認識能力が上がるようです。述べ545人の4つの実験から、地図や図形を回転するといった空間認識能力が男女間の能力よりも、自信に影響を受けているという結果を得ました。


よく”女性は数学能力が低い”と言われているために、試験の前に”女性であること”を意識させると数学の点数が下がるという性的なステレオタイプについては言われていますが、空間認識能力もそのような影響を受けているんですね。驚きました。

また、「昔は女性は家にいて男性は狩りをしたので、男性の方が空間認識能力が高い」というもっともそうで面白いけど本当かどうか分からない進化心理学的な説明をする人がいますが、もしかするとこういう言動こそが女性の空間認識能力を下げているステレオタイプとなっているのかもしれません。


この記事は以下を参考に書きました。
University of Warwick. "Confidence is key to women's spatial skills." ScienceDaily, 5 Dec. 2011. Web. 7 Dec. 2011.

元の論文情報はこちら。
Zachary Estes, Sydney Felker. Confidence Mediates the Sex Difference in Mental Rotation Performance. Archives of Sexual Behavior, 2011; DOI: 10.1007/s10508-011-9875-5


(文: SY)
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1人を殺すか、5人を殺すか

ケーブル サーバー      - 写真素材
(c) TK.写真素材 PIXTA


言葉としては昔流行ってたバーチャル・リアリティ(VR 仮想現実)も最近はコンピュータが進歩してきて、見た目もリアルになってきています。また、ヘッドマウントディスプレイ(HMD 頭につけるディスプレイ)が低価格になってきたり、Kinnectのように身体の動きを安価に検出できる機械が出てきたりと今後流行の兆しが見えています。実際に、バーチャルリアリティを使って認知行動療法でのセラピーに役立てたりといった記事を読んだことがあります。

今回はそのバーチャルリアリティを使ってトロッコ問題として知られるものをやってもらうという実験についてです。トロッコ問題には様々な亜種がありますが、基本的には以下のようなものです。
1.ブレーキの効かないトロッコがあり、本線を走っている。
2.本線のレールの先には5人の人がいる
3.支線のレールの先には1人の人がいる
4.このままでは本線の5人を轢いてしまうが、スイッチを引けば支線の1人を轢くだけで済む
5.さあ、どうする?


昨年、流行ったマイケル・サンデル教授の”ハーバード白熱教室”でも、功利主義者の説明として出てきた例です。


ミシガン州立大学のC David Navarreteらによる研究では、147人の被験者が実験室内でヘッドマウントディスプレイを使って実際にこの状況に”入って”どうするかを実験しました。この研究では147人のうち133人、つまり90.5%がスイッチを引いて5人でなく1人を殺すことを選びました。

このトロッコ問題は被験者の母集団の選び方によって結果は変わってくると思いますが、バーチャルリアリティを使って実験を行うというのは面白いアイデアですね。そういえば、ミルグラムの服従実験もバーチャルリアリティで行われたというのが雑誌の記事に載っていました。

今後は、バーチャルリアリティ空間での心理学実験というのも増えていきそうです。

この記事は以下を参考に書きました。
Michigan State University. "Moral dilemma: Would you kill one person to save five?." ScienceDaily, 1 Dec. 2011. Web. 7 Dec. 2011.

論文情報はこちら

(文: SY)

この本、文庫になったんですね。哲学的な教養としても面白いです。
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
マイケル サンデル
早川書房
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2011年11月30日

見積もり時間はいつも少なめ

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”計画の誤り”(planning fallacy)というのはよく言われます。実際に、人は作業の見積もりが苦手というのは散々言われています。

では、実際にはどうなんでしょうか?

Buehlerら,1994の研究によると、大学生が学位論文を書くのにかかった時間は、”現実的な見積もり”よりも3週間長く、また”最悪かかる見積”よりも1週間長くかかりました。

また、Buehler, Griffin, とRoss,2002の研究では、学生がレポートにかかる時間を見積もりました。その結果、”50%の確率で終わる時間の見積もり”に終わった人は13%、”99%の確率で終わる時間の見積もり”に終わった人は45%となりました。


このように人は直感で見積もりをすると実際にかかるよりも、かなり短い見積をしてしまいます。もちろん、このような傾向があってもより正確に見積もる方法はあります。仕事で定期的に見積もりをしている人ならば実践しているように、きちんと記録し続けて、見積もりを実際を見直すことでより正確な見積もりをすることができます。

また、記録をすることで、自分の見積の傾向が分かります。例えば「違和感があっても、出した見積の1.5倍にするとちょうどいい」といったことが経験的に分かってきます。完全に初めて行うような仕事の見積もりは、これまでの経験がききません。これも、記録をしていれば、「違和感があっても見積もりの2倍で、最悪ベースについては最初にふと思ったものの3倍くらいでちょうどいい」といった経験を得ていくのではないでしょうか?


この記事はDavid Dunningら,2004の"Flawed Self-Assessment Implications for Health, Education, and the Workplace"を参考に書きました。


参考文献:
Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (1994). Exploring the ‘‘planning
fallacy’’: Why people underestimate their task completion times. Journal of Personality and Social Psychology, 67, 366–381.

Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (2002). Inside the planning fallacy: The causes and consequences of optimistic time predictions. In T. Gilovich, D. Griffin, & D. Kahneman (Eds.), Heuristics and biases: The psychology of intuitive judgment (pp. 251–270). Cambridge, England: Cambridge University Press.


(文: SY)
posted by さいころ at 06:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 発想法・問題解決